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「割増し退職金が出るので、55歳で会社を辞めようか迷っています」
これは、早期退職を考える場面を想定した架空の問いです。まとまった退職金が入ると、仕事の負担から離れ、自由な時間を持てる生活が現実味を帯びてきます。
ただし、退職金の金額だけでは、その後の生活が成り立つかは分かりません。確認したいのは、年金受給まで毎年いくら不足し、その不足を埋めた後に老後の資産がどれだけ残るかです。
この記事では、55歳で辞めて働かない、収入を下げて働く、65歳まで現在の会社で働く、という3つの選択肢を架空モデルで比較します。働き続けることを正解にするのではなく、それぞれを選ぶためのお金の条件を整理します。
この記事の要点
早期退職では、通常より多い退職金を受け取れる場合があります。しかし、退職金の上乗せと、退職後に受け取らなくなる給与は、分けて考える必要があります。
例えば、退職金が1,000万円多くても、毎年の家計が赤字になれば、その上乗せ分は生活費に使われていきます。「今いくら入るか」に加え、「その後いくら出ていくか」を確認しましょう。
一方で、給与の差額だけで退職の損得を決めることもできません。通勤、仕事に伴う外食や交際などの支出が減る場合もあれば、旅行や趣味の支出が増える場合もあります。健康、仕事の負担、家族との時間も大切な判断材料です。
退職金は額面ではなく手取りで比べます。退職所得の税額は勤続年数、他の退職一時金との受取関係などで変わるため、一律に「退職金には税金がかからない」とは考えないでください。国税庁の説明も確認し、会社に手取り見込額を問い合わせましょう。個別の税額計算や税務判断が必要な場合は、税理士に確認します。
まず、生活費、住宅ローン、教育費、別払いの税金・社会保険料を並べ、本人と配偶者の手取り収入を差し引きます。基本は「年間支出-年間収入=資産から補う金額」です。
10年間の平均だけでは不十分です。大学の入学金や下宿の初期費用、退職翌年の公的負担などは、特定の年に集中します。年ごとの残高に加え、大きな支払いが重なる月の預金残高も確認しましょう。
住民税は前年の所得に基づくため、無職になっても退職前の給与に対応する負担が残ることがあります。給与や退職時の精算で納付済みの額を確認し、未払い分だけを追加します。詳しくは退職した年の住民税と健康保険料をご覧ください。
再就職まで健康保険の空白がある場合は、任意継続、国民健康保険、家族の健康保険の被扶養者という選択肢を、加入条件と保険料で比較します。扶養に入れるとは限らず、配偶者の手取り収入だけでは判断できません。退職後の健康保険の整理で確認事項をまとめています。
国民年金も確認が必要です。国内居住の20歳以上60歳未満の方が厚生年金を離れる場合などは、第1号への切替えや、条件を満たす場合の第3号への切替えを確認します。本人の退職によって、扶養されていた配偶者の手続きが必要になることもあります。健康保険を任意継続しても、厚生年金がそのまま続くわけではありません。
以下は実際の相談事例ではなく、比較のための架空モデルです。企業年金や雇用保険の基本手当などは、受給の有無・金額を設定していないため、収入に含めていません。実際の計画では、ご自身の受給条件を確認して反映します。
スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。
| 項目 | 仮定 |
|---|---|
| 家族 | 本人55歳、配偶者53歳、大学進学を控えた子ども1人 |
| 現在の金融資産 | 2,000万円。退職金は含まない |
| 55歳で退職する場合 | 割増し退職金は手取り3,000万円 |
| 65歳まで勤務する場合 | 65歳時点の退職金は手取り2,000万円 |
| 基本生活費 | 年360万円。住宅ローン・教育費・別払いの税金と社会保険料を除く |
| 住宅ローン | 年120万円を10年間返済し、本人65歳時点で完済 |
| 教育費 | 今後の総額600万円 |
| 配偶者の収入 | 手取り年120万円を10年間。本人65歳時点で配偶者は63歳 |
| 本人の収入 | 働かない:0円/退職後働く:手取り年240万円/勤務継続:手取り年600万円 |
| 比較期間 | 55歳から65歳までの10年間。運用益・物価上昇は考慮しない |
退職後働くケースは、すぐに就職し10年間働く仮定です。勤務継続のケースも、手取り年600万円が10年間変わらない仮定であり、一般的な企業の定年・再雇用条件を表すものではありません。
スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。
| 項目(単位:万円) | 退職後は働かない | 退職後、収入を下げて働く | 現在の会社で働き続ける |
|---|---|---|---|
| 現在の金融資産 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
| 退職金の手取り | 3,000 | 3,000 | 2,000 |
| 本人の10年間の手取り収入 | 0 | 2,400 | 6,000 |
| 配偶者の10年間の手取り収入 | 1,200 | 1,200 | 1,200 |
| 10年間の基本生活費 | ▲3,600 | ▲3,600 | ▲3,600 |
| 10年間の住宅ローン返済 | ▲1,200 | ▲1,200 | ▲1,200 |
| 教育費総額 | ▲600 | ▲600 | ▲600 |
| 追加負担控除前の概算残高 | 800 | 3,200 | 5,800 |
※勤務継続の退職金2,000万円は65歳時点で受け取る設定です。途中の生活費に使える資金ではありません。各ケースの別払いの追加負担総額をそれぞれX₁・X₂・X₃万円とすると、残高は800-X₁、3,200-X₂、5,800-X₃万円です。Xの額はケースごとに異なり、未算定です。この表は最終的な老後資金を示すものではありません。
手取り収入に反映済みの税金・社会保険料は、再び差し引きません。一方、無職期間の健康保険料や国民年金保険料、給与天引きで納付されていない住民税などは別途確認します。退職金も税引後の設定なので、退職金への税金を重ねて引かないよう注意してください。
教育費と別払いの税金・社会保険料等を除く年間収支は、働かない場合で360万円の赤字、収入を下げて働く場合で120万円の赤字、勤務継続では240万円の黒字です。割増し退職金の差だけでなく、その後の収支が残高に大きく影響すると分かります。
次に見るのは、65歳以降の年金と生活費の差です。このモデルでは住宅ローン返済が終了するので、年120万円をそのまま老後の支出に残してはいけません。一方、住宅修繕や車の買い替え、医療・介護、物価上昇への備えは別に必要です。
年金額も、3つのケースで同じとは限りません。厚生年金に加入する期間や給与が変わると、将来の見込額も変わります。本人と配偶者それぞれについて、今後の働き方を変えた見込額をねんきんネットなどで確認しましょう。
本人65歳時点で、配偶者は63歳です。このモデルでは配偶者の就労収入をそこまでとしています。配偶者が原則65歳から年金を受け取るなら、その開始までの約2年間を夫婦双方の年金がそろった家計と分けて計算します。
「資産が残るか」に加え、「毎年の不足を何年補えるか」「まとまった出費の後にも余力があるか」を見てください。受給開始時期を検討する場合は、年金繰下げと退職金の考え方も参考になります。
基本比較では、退職直後から手取り年240万円で働けると仮定しました。しかし、採用が決まる時期、給与、社会保険への加入は、希望だけでは確定しません。
再就職まで1年間かかり、65歳までの就労が9年間になる場合、他の条件が同じなら手取り収入は240万円減ります。追加負担控除前の残高は3,200万円から2,960万円になります。無職期間の社会保険料等の変化は、この240万円とは別に確認が必要です。
給与が想定より低い場合や、健康・介護などで長く働けない場合も試算しましょう。
また、「運用で不足を埋めればよい」と見込む前に、値下がりしても生活費を出せるかを確認してください。資金の分け方は退職金の配分ルール、取り崩しは60代のNISAの設計で整理しています。
住宅ローンを先に完済する案は、今回の返済継続モデルと分けて比較してください。退職金で住宅ローンを完済する判断基準も確認できます。
早期退職の検討では、「辞めても生活が成り立つ条件」「収入を下げて働けば成立する条件」「もう少し働くと改善する点」を並べると、家族で話し合いやすくなります。
必要なのは、他人の退職金の平均額ではなく、ご家庭の年ごとの収支と、その先の暮らしの見通しです。数字を整理したうえで、健康、仕事の負担、自由な時間も含めて選びましょう。
フィナンシャル・デザインオフィスMAEDAでは、退職金、年金、住宅ローン、保険、運用を家計全体で整理する総合マネー個別相談を行っています。相談料は1回33,000円(税込)。早期退職を申し込む前に、ご自身の条件で選択肢を比べたい方は、相談内容とお申し込み方法をご確認ください。
この記事を書いた人・編集監修
Hajime Maeda(前田創)。AFP、実務経験20年。フィナンシャル・デザインオフィスMAEDA(運営:ツクス株式会社)。退職金、老後資金、保険、住宅ローン、教育費など、家計全体を整理する相談業務を行っています。記事では制度の一般論だけでなく、実際の家計で確認すべき順番を重視しています。プロフィール
確認日:2026年10月6日。制度は個別条件や今後の改正により取扱いが変わる場合があります。
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