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老後の生活費、預金とNISAのどちらから使う?取り崩しを始める前の確認事項

2026.10.13

積み立ててきた資産を、生活費として使い始める。現役時代は積立額や運用成績を見ていた方も、退職が近づくと「預金を先に使うべきか」「NISAを売るともったいないのか」と迷うことがあります。

使う順番を決める前に、年金などで足りない生活費と、手元に必要な現金を確認することが先です。預金とNISAのどちらから使うかは、口座名だけでは決まりません。これからの暮らしで、いつ・いくら使うのかを出発点に考えます。

この記事の要点

  • 生活費全額ではなく、年金などの手取り収入で足りない金額を計算します。
  • 近いうちに使うお金と急な支出への備えを、運用するお金から分けます。
  • 預金を使い切る前に、現金残高と資産全体の値動きを見直します。

1|まず計算するのは「生活費の不足額」です

生活費が月30万円でも、その全額を資産から出すとは限りません。年金や働いて得る収入で、どこまで賄えるかを確認します。

説明用の仮定 月額
夫婦の年金などの手取り収入 25万円
生活費 30万円
資産から補う不足額 5万円(年間60万円)

これは平均値や特定の顧客事例ではありません。生活費30万円には、固定資産税、保険料、車の維持費など、毎月以外の経常的な支出を月割りした額も含む前提です。大規模な修繕などの臨時支出は別に考えます。

年金は、通知書の額面をそのまま使えるとは限りません。税金や社会保険料が差し引かれた後の入金額を確認し、別払いの負担も家計に入れます。すでに差し引かれている負担を二重に数えないことも大切です。〔日本年金機構:年金振込通知書〕

退職から年金受給開始までと、受給開始後では不足額が変わります。夫婦の年齢差で年金の開始がずれる場合も、収入がそろうまでを分けて計算してください。

2|手元の現金は、何のために残すのでしょうか

現金は、単に運用していないお金ではありません。次の四つの役割を持たせて整理します。

  • 日常の買い物や口座引落しに使う決済資金
  • 年金などで足りない生活費を補う資金
  • 急な支出に備える資金
  • 時期と金額が見えている、まとまった支出の資金

目的は、相場が下がったときに、生活費のために慌てて売る状況を減らすことです。「生活費の何年分を必ず預金に置く」という一つの基準では決められません。年金で生活費の大部分を賄える家庭と、不足額が大きい家庭では、必要な現金が違います。

同じ預金残高でも、収入の安定性、家族から受けられる支援、住まいの修繕予定によって余裕は変わります。使う目的が重なったお金を、それぞれの備えとして二重に数えないようにします。

3|預金から使うときは、残った資産の割合も見ます

預金から使えば、価格変動のある資産をすぐ売らずに済み、支払いや資金管理もしやすくなります。一方、預金だけを使い続けると、残った資産に占める値動きのある資産の割合が高くなる場合があります。

例えば、預金600万円と投資信託1,400万円なら、投資信託の割合は70%です。値動きがないと仮定して預金だけを300万円使うと、残高は預金300万円と投資信託1,400万円となり、その割合は約82%になります。新しく投資しなくても、資産の構成は変わるのです。

ここで相場が下がり、残りの預金では支払いに足りなくなると、売却を先送りしにくくなります。「預金を使い切ってからNISAを売る」と固定せず、現金を補充する時期を残高と支出予定から考えます。

また、預金の名目残高が同じでも、物価が上がれば買えるものは減る場合があります。現金の安心感と、長い期間の購買力の変化を両方見ておきたいところです。

4|NISAを使うことは、積立の失敗ではありません

NISAは、対象となる投資の利益を非課税にする制度です。株式そのものの名前ではなく、値動きは保有する投資信託や株式などの中身によって異なります。「NISAだから安全」とは判断できません。まず、何に投資しているのかを確認します。〔金融庁:NISAを知る〕

NISAの資産を売れば、必要な生活費や予定している支出に充てられます。値動きのある資産の一部を現金に換えることで、資産全体のリスクを調整できる場合もあります。

ただし、売却した分は、その後の運用による値上がりにも値下がりにも参加しなくなります。受け取れる金額は売却時の相場に左右され、売却代金を出金できるまでの日数も商品や金融機関によって異なります。支払日の直前ではなく、取引先の案内や目論見書で確認しましょう。

非課税のメリットがあっても、使わないこと自体を目的にする必要はありません。老後の生活を支えるために取り崩すことは、資産の用途に沿った行動です。必要な支出まで我慢する前に、使ってよい金額を家計から確認します。

5|相場が下がっても、生活費の支払いは続きます

運用しながら取り崩す場合は、平均的な運用利回りだけでは判断できません。取り崩しを始めた直後に大きく値下がりすると、同じ生活費を用意するために、より多くの口数を売ることがあります。売った分は保有しなくなるため、その後に価格が上がった場合でも、残った資産の増え方に影響します。

相場がいつ回復するかは分かりません。まず、最低限必要な生活費と、時期や金額を調整できる支出を分け、次の対応を組み合わせます。

  • 事前に確保した現金で当面の支払いに対応する
  • 旅行や買い替えなど、延期できる支出を見直す
  • 必要な売却額と、資産全体の配分を再確認する

現金を使えば、どのような下落でも乗り切れるわけではありません。長期化すれば現金も減ります。無期限に売らないと決めるのではなく、生活を維持するために必要な売却も含めて考えます。

6|まとまった出費は「時期・金額・延期できるか」で整理します

毎月の家計が回っていても、大きな支払いが重なると資金繰りは変わります。次のような表に、家族の予定を書き出してください。金額は相場を当てはめず、見積書や希望する内容から確認します。

スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。

支出 時期 概算額の確認方法 延期できるか
住宅の修繕 点検結果・工事予定 業者の見積額を記入 安全性や劣化状況による
車の買い替え 車検・使用年数を確認 諸費用込みで確認 必要性と車の状態による
医療・介護 予定分と不確定分を分ける 自己負担・付随費用を確認 必要な治療等は延期前提にしない
子や孫への援助 家族と相談 自分たちが出せる上限を記入 金額・時期を相談
旅行や趣味 希望時期を記入 希望する計画の予算を記入 時期・内容を調整

近い時期に使う予定のお金は、価格変動のある資産から切り分けて考えます。支出予定が曖昧なまま、退職金を全額運用に回すと、必要な時期に売却を迫られる場合があります。

7|預金600万円でも、すべてが余裕資金とは限りません

ここまでの考え方を、説明用の仮定で整理します。顧客事例や推奨する配分ではありません。NISAの金額は投資信託の現在の評価額です。

項目 仮定
預金 600万円
NISAで保有する投資信託 1,400万円
生活費の年間不足額 60万円
2年後の住宅修繕費 200万円

預金から修繕費200万円を別にすると、残りは400万円です。しかし、この400万円には、日常の決済資金、急な支出への備え、毎年60万円の不足を補うお金という役割があります。

400万円を60万円で割って「預金だけであと何年暮らせる」と結論づけると、修繕以外の出費や物価の変化を見落とします。何年分の不足に現金で備えるかは、ほかの収入、臨時支出、保有商品の値動きによって変わります。

まず必要な現金の目安を決め、残高がそこに近づく前に見直します。必要に応じてNISAの一部を現金に換えるのか、支出を調整するのかを検討し、当面使わない部分は運用を続けられるか判断します。

8|取り崩しを始める前のチェックリスト

  • □ 年金などの手取り収入を確認した
  • □ 毎月以外の支出を含め、年間支出を把握した
  • □ 退職後、年金受給開始までの不足額を確認した
  • □ 生活費の年間不足額を計算した
  • □ 今後のまとまった出費を整理した
  • □ 手元に残す現金の目安を決めた
  • □ NISAで何を保有し、どの程度値動きするか確認した
  • □ 相場下落時に調整できる支出を確認した
  • □ 売却から入金までの所要日数を確認した
  • □ 定期的に残高と支出を見直す時期を決めた

見直しは、例えば毎年同じ月に行い、大きな出費や収入の変化があったときにも確認します。最初の計画に固執せず、暮らしに合わせて調整していきます。

まとめ|何を先に売るかより、いつ・いくら使うか

預金を先に使う、NISAを最後まで残すという一律の順序ではなく、年金、生活費、手元の現金、支出予定、資産配分をまとめて考えます。

増やすことだけでなく、生活を支えるために使うことも資産管理の目的です。必要な支出をためらい続ける前に、使うお金と残すお金を整理してみてください。

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この記事を書いた人・編集監修

Hajime Maeda(前田創)。AFP、実務経験20年。フィナンシャル・デザインオフィスMAEDA(運営:ツクス株式会社)。退職金、老後資金、保険、住宅ローン、教育費など、家計全体を整理する相談業務を行っています。記事では制度の一般論だけでなく、実際の家計で確認すべき順番を重視しています。プロフィール

出典・参考

確認日:2026年10月6日。金額例は説明用の仮定であり、平均値や顧客事例、運用成果・資産寿命の保証ではありません。

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