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父が亡くなった。母に多く相続させれば安心なのか?

2026.09.30

「父が亡くなりました。母にできるだけ多く相続させた方が、相続税は安くなるのでしょうか?」

親の相続が起きたとき、50代、60代の子ども世代が迷いやすい問いです。母にはお金の心配をせず暮らしてほしい。できれば税負担も抑えたい。どちらも、ごく自然な気持ちだと思います。

ただ、この問いに答える前に確認したいことがあります。お母さまは、これからどこで、どのように暮らしたいのでしょうか。その暮らしを続けるためのお金は、いくら必要なのでしょうか。

配偶者の税額軽減によって、母に多く相続してもらうことで、今回の税負担を抑えられるケースはあります。しかし、「今回の相続税が一番安くなる分け方」と「この家族にとって将来まで含めて適切な分け方」は、必ずしも同じではありません。

この記事では、母の現在の資産、年金、生活費、インフレ、医療・介護、住まい、そして二次相続を、一つの資金計画として考えます。冒頭の会話と本文の金額例は、検討する論点を示すための架空例で、特定の相談者の実例ではありません。

この記事の要点

  • 遺産の分け方を決める前に、母自身の資産と、相続後の年金・生活費を確認します。
  • 今の生活費を10年後、20年後まで固定すると、物価上昇や介護・住まいの変化を見落とすことがあります。
  • まず母の生活資金を確保し、そのうえで一次相続と二次相続の税負担を合わせて考えます。

1|母に多く相続させると、一次相続の税金は安くなる?

父が先に亡くなり、母と子どもが相続する場面を「一次相続」、その後、母が亡くなったときの相続を「二次相続」と呼ぶことがあります。ここでは、この順番を想定します。

一次相続では、母は配偶者として税額軽減を受けられる場合があります。国税庁によると、配偶者が実際に取得した正味の遺産額について、「1億6,000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからない仕組みです。

ただし、「家族全員の相続税が必ずゼロになる」という意味ではありません。また、この軽減を使って納税額がゼロになる場合でも、原則として必要書類を添えた申告が必要です。未分割の財産の扱いや適用条件を含め、具体的な税務判断は税理士に確認してください。〔出典:国税庁「配偶者の税額の軽減」〕

大切なのは、税額軽減を使うかどうかだけで結論を出さないことです。母が取得した財産のうち、生活費などに使わず将来まで残った分は、母自身の財産とともに二次相続の対象になります。

2|「父の財産をどう分けるか」の前に、母のお金を一枚に並べる

父の預金や不動産の一覧はできているのに、母の通帳、年金の振込額、毎月の支出はまだ確認していない。相続後の生活設計では、こうした状態のまま話を進めないことが大切です。

母に必要な相続額は、父の遺産だけを見ても分かりません。まず、次の項目を同じ表に並べます。

確認すること 具体的に見るもの
母自身の資産 預貯金、株式・投資信託、不動産、保険。すぐ使えるお金と、売却などが必要な資産を分ける
相続後の年金収入 母自身の年金と遺族年金の見込み。税金・社会保険料を引いた手取りを確認する
毎月の生活費 食費、光熱費、通信費、住居費、交通費、交際費など。年払いの支出も含める
今後のまとまった支出 医療・介護、住宅修繕、家電の買い替え、引っ越し、施設入居など
暮らし方と支援 自宅に住み続けるか、住み替えるか。家族が手伝える範囲と外部サービスの必要性
父から取得する財産 金額だけでなく、預金・不動産・有価証券の組み合わせと、納税後に手元に残る資金

父の年金が、そのまま母に引き継がれるわけではありません

「今まで夫婦の年金で暮らせていたから、母一人なら大丈夫」とは言い切れません。遺族年金の有無や金額、母自身の老齢厚生年金との調整を確認する必要があります。単純に、父の年金額をそのまま母の収入に足さないようにしてください。〔出典:日本年金機構「遺族厚生年金」〕

一方、生活費も一人になれば半分になるとは限りません。住まいの維持費や通信費、固定資産税などは、一人暮らしになっても残ります。夫婦二人の家計から、母一人の家計へ組み直す作業が必要です。

3|生活費を「今の金額」のまま固定しない。食品価格はどう変わったか

もう一つ見落としたくないのが、物価の変化です。2022年、2023年ごろから身近な食品の値上がりが気になるようになりましたが、印象だけで老後資金を考えるわけにはいきません。

そこで、総務省の公表データから、2023年8月と2026年8月を比較しました。季節の違いを避けるため同じ月とし、価格表は名古屋市の税込価格でそろえています。2026年8月は、この記事の確認日である2026年9月30日時点で公表済みの月です。

名古屋市の食品価格比較|同じ規格の5品目

 
食品・規格 2023年8月 2026年8月 値上がり額 上昇率
米(コシヒカリ) 5kg 2,084円 3,822円 +1,738円 +83.4%
食パン 1kg 478円 515円 +37円 +7.7%
バター 200g 505円 591円 +86円 +17.0%
味噌(米みそ) 750g 354円 434円 +80円 +22.6%
卵 10個 311円 328円 +17円 +5.5%
 

出典:総務省「小売物価統計調査(動向編)」第1表・主要品目の都市別小売価格、名古屋市、2023年8月/2026年8月。増減額=2026年価格-2023年価格、上昇率=(2026年価格÷2023年価格-1)×100。上昇率は小数第1位に丸めています。2023年8月の原表/2026年8月の原表

米は国内産・単一原料米のコシヒカリ5kg、食パンは普通品1kg、バターは食塩不使用を除く200g箱、味噌は米みそ・並・750gカップ、卵は白色卵・サイズ混合・10個入りです。両月の基本銘柄と単位を照合しています。ただし、同一店舗の同一商品を追跡したレシート比較ではなく、地域の調査価格です。家庭の購入価格や全国平均を示すものではありません。

たとえば、米5kgは2,084円から3,822円へ、1,738円上がっています。味噌750gは354円から434円へ、80円の上昇です。一度の買い物では数十円の違いでも、繰り返し買うものの値上がりは家計に積み重なります。

食用油は容量が変わったため、価格ではなく指数で比較

食用油の調査規格は、2023年8月が1,000g入り、2026年8月が900g入りです。商標指定の条件にも違いがあるため、「1本いくら」だけを比べて値上がり・値下がりとは判断しません。

この品目は、総務省が公表する全国の消費者物価指数の接続系列(2025年=100)を使います。2023年も同じ基準に換算された指数なので、基準の異なる数字をそのまま割り算する比較ではありません。

品目・指標 2023年8月 2026年8月 指数の差 上昇率
食用油・全国CPI
2025年=100
106.4 111.1 +4.7ポイント +4.4%

出典:総務省「2025年基準消費者物価指数」第4-1表・品目別価格指数(全国)月次、「食用油」。2026年8月分、2026年9月18日公表。上昇率は公表指数から独自計算。原表/接続指数の説明。指数の4.7ポイント上昇は4.7円の値上がりではありません。

値上がり方は食品ごとに違い、途中で下がる月もあります。この6品目の上昇率を平均して、生活費全体の上昇率にすることもできません。ただ、数年前と同じ予算で、同じ買い物ができるとは限らないことは分かります。

4|月30万円の暮らしは、年2%の物価上昇でどう変わる?

ここからは実績ではなく、仮定を置いたシミュレーションです。現在、月30万円で生活している家庭が、今と同じ内容・量の買い物やサービスを続けるとします。

仮に、その生活にかかる費用が毎年2%ずつ上がった場合、必要な月額は次のようになります。

 
時点 同じ暮らしに必要な月額 現在との差
現在 30.0万円 ―
10年後 約36.6万円 約+6.6万円/月
20年後 約44.6万円 約+14.6万円/月
 

計算式:300,000円 × 1.02年数

10年後は365,698円、20年後は445,784円です(円未満を四捨五入)。「元の金額に2%×年数を足す」単利ではなく、前年の金額にも翌年の上昇率がかかる複利で計算しています。

これは、今後の物価が必ず年2%上がるという予測ではありません。食品の比較表から導いた予測でもありません。家計が物価上昇にどの程度耐えられるかを確認するための仮定です。

言い換えると、今の30万円と同じ購買力を保つために、10年後には約36.6万円、20年後には約44.6万円が必要になる、という計算です。20年後の負担が一度に増えるのではなく、少しずつ積み重なります。

この月30万円は説明用の家庭の予算であり、高齢の母一人に必要な生活費の標準額ではありません。実際には、お母さまの家計簿や口座の出入りを基に置き換えます。

年金の手取りと、生活費の「差」を毎年確認する

たとえば、生活費が月30万円、年金の手取りが月20万円なら、現在の不足は月10万円です。仮に年金を月20万円で固定して比較すると、20年後の不足は約24.6万円になります。

実際の公的年金には改定があり、ずっと同額とは限りません。ただし、生活費と必ず同じ割合で増えるとも限らないため、収入と支出を別々に見積もります。

「今は月30万円で暮らせるから、今後も月30万円あれば大丈夫」という計画では、こうした差が見えません。生活費は現在額を起点にしながら、物価上昇率を変えた場合や、介護が必要になった場合も比べておきたいところです。

5|母が70代、80代でも「あと5年」だけで考えない

「母も高齢だから、当面の生活費があれば足りるのでは」。そう考えたくなるかもしれません。しかし、何年分を用意するかは、家族が都合よく決められるものではありません。

70歳なら20年後は90歳、80歳なら15年後は95歳、20年後は100歳です。すべての方がその年齢まで生きるという予測ではなく、長く暮らせた場合にも資金が続くかを確かめる期間として、10年、15年、20年を並べます。

長生きできることは喜ばしいことです。資金計画では、その喜ばしい時間を支える生活費を見落とさないようにします。

毎月の生活費とは別に、住まいと介護の変化を置く

年齢を重ねると、通院の交通費、入院時の身の回りの費用、介護サービス、自宅の段差解消、屋根や水回りの修繕などが必要になる場合があります。外出や買い物を家族が手伝えなくなり、有料サービスを使うこともあるでしょう。

介護保険施設でも、介護サービス費の自己負担だけでなく、居住費、食費、日常生活費などが必要です。公的な負担軽減の対象になるかも含めて確認します。〔出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料」〕

老人ホーム等を考える場合は、候補となる施設の資料で、入居時の費用、月額費用、医療・介護の別料金、料金改定の条件を確認します。「月額」と書かれた金額だけで、すべてをまかなえるとは限りません。

仮に月額費用が25万円の施設で5年間暮らすと、その部分だけで1,500万円です。これは相場ではなく、25万円×12か月×5年という計算例で、入居一時金や別途の医療費等は含めていません。そこから年金などで支払える分を差し引き、資産から補う額を考えます。

施設へ移った後は、自宅にいたときの食費や光熱費の一部が減ることもあります。今の生活費に施設費を丸ごと上乗せして、同じ支出を二重に数えないことも大切です。一方、自宅を残すなら固定資産税や維持費は続きます。

考える順番は、母の暮らしが先です。

二次相続税を減らすためだけに母の取得分を小さくし、必要な医療・介護や住まいを選べなくしては、本末転倒です。まず母が安心して生活できる資金を確保する。そのうえで、二次相続を考えます。

6|母にすでに資産がある家庭では、二次相続の見え方が変わる

反対に、母自身に十分な金融資産があり、年金と合わせて今後の生活資金を確保できる家庭もあります。その場合は、父の財産を母へ集中させる必要があるのかを検討できます。

たとえば、母がもともと金融資産4,000万円を持ち、父から金融資産3,000万円を相続すれば、取得直後の合計は7,000万円です。ただし、この7,000万円を、そのまま将来の相続税の課税額と考えるわけではありません。

母の生活費や介護費で使う額、年金等で補える額、資産の値動き、不動産などほかの財産、債務や控除によって結果は変わります。父から相続した財産が多く残れば、母の元の財産と合わせて、二次相続の税負担が増える可能性があります。

母の相続時に配偶者がいなければ、配偶者の税額軽減は使えません。相続人が母と子ども2人から、子ども2人へ変わる通常の例では、基礎控除も4,800万円から4,200万円へ変わります。これは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」による計算であり、税額そのものではありません。〔出典:国税庁「相続税の計算」〕

一次相続と二次相続を比較する考え方は、二次相続まで見た相続対策の解説でも取り上げています。ただし、母に多く相続させることが悪いのでも、子どもに多く相続させることが正解なのでもありません。

年齢、健康状態、母自身の資産と年金、生活費、今後の住まい、介護の可能性、子どもの人数が違えば、必要な分け方も変わります。子どもが取得したお金を、母が自由に使えるお金として数えることも避けてください。

7|FPは母の生活設計を整理し、税理士などの専門家とつなぐ

家族で話すときは、「誰がいくら相続するか」を最初の議題にするより、母の暮らしをどのように支えるかから始めると、確認すべき数字が見えてきます。

  1. 母の希望を聞く。住み慣れた家にいたいのか、子どもの近くへ移りたいのか。本人の意向を出発点にします。
  2. 母の資産・年金・生活費を整理する。資産総額と、生活費として使える資金を分けます。
  3. 10年・15年・20年の資金の流れを見る。物価上昇、介護、修繕、施設入居など、複数の条件で不足時期を確認します。
  4. 生活資金を確保できる分割案を比較する。税理士に一次・二次相続の税負担を確認し、納税のための現金も確保します。
  5. 専門家と手続きを進める。生活面の検討と並行して、申告や登記等の期限も確認します。

フィナンシャル・デザインオフィスMAEDA(運営:ツクス株式会社)は、名古屋を中心に、相続後の生活設計、老後資金、金融資産・生命保険の整理、資産の持ち方、一次相続から二次相続までを見据えた資金計画を、FPの立場で整理します。

具体的な税額・税務上の有利不利の判断や申告は税理士、相続登記は司法書士、遺産分割をめぐる法的紛争は弁護士の領域です。当オフィスがこれらの業務を代わりに行うものではなく、必要に応じて専門家と連携します。税理士が確認した税額を、家族の資金計画に反映していきます。

相談先の役割については、名古屋で相続相談するなら誰へ?専門家の役割と連携も参考にしてください。

まとめ|相続税の最小化より先に、母のこれからを確認する

今回の相続税が最も安くなる分け方が、その家族にとって最も良い分け方とは限りません。

残された母が、この先10年、20年と安心して暮らせるのか。今の生活費だけでなく、物価上昇、医療・介護、住まいの変化にも対応できるのか。まず、そこを確認します。

そのうえで、母自身の財産と父から取得する財産を合わせ、一次相続と二次相続の税負担を考える。母に多く相続させるか、子どもに多く相続させるかは、その検討の後に出てくる結論です。

相続は、財産を分けて終わりではありません。残された母の人生を、どのお金で、どのように支えていくかを考える機会でもあります。

相続後の生活設計を整理したい方へ

相続税だけでなく、相続後の生活費や資産管理、二次相続まで含めて整理したい方は、個別相談で一緒に確認しています。

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相談料は33,000円(税込)/1回です。相談内容が合うか確認したい場合は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

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この記事を書いた人・編集監修

Hajime Maeda(前田創)。AFP、実務経験20年。フィナンシャル・デザインオフィスMAEDA(運営:ツクス株式会社)。退職金、老後資金、保険、相続、教育費など、家計全体を整理する相談業務を行っています。記事では制度の一般論だけで結論を急がず、実際の家計で確認すべき順番を重視しています。プロフィール

出典・参考

確認日:2026年9月30日。食品価格・指数は2023年8月と2026年8月の公表値です。将来の生活費は仮定に基づく独自試算であり、将来の物価や必要額を予測・保証するものではありません。個別の税務判断・手続きは税理士等の専門家にご確認ください。

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