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「収入保障保険は要らない」は本当か?万一の収入減少から家族を守るという視点で考える

2026.08.13

「収入保障保険は要らないのではないか」

最近、生命保険の見直し相談でこうした話を聞く機会が増えました。

遺族年金がある。住宅ローンには団体信用生命保険が付いている。預貯金やNISAで資産形成をしている。昔のように大きな死亡保険に入る時代ではない。

その考え方には、うなずける部分があります。家計に余裕があり、配偶者の収入や資産で生活を続けられる家庭まで、無理に収入保障保険へ加入する必要はありません。

ただし、「遺族年金があるから」「団信があるから」という一言だけで、万一後の生活費まで足りると決めてしまうのは少し危ういと感じます。

収入保障保険は、全員に必要な保険ではありません。見るべきなのは、死亡率の高さでも、保険商品の名前でもなく、万一の後に家族の毎月の生活が続けられるかどうかです。

記事中の家族構成や金額は、制度と考え方を分かりやすく説明するために設定した架空の事例です。実在の相談事例ではありません。

「収入保障保険は要らない」という考えにも理由がある

収入保障保険が不要だと言われる背景には、いくつかの現実的な理由があります。

  • 遺族年金などの公的保障がある
  • 住宅ローンは団体信用生命保険で完済されることが多い
  • 定期保険や終身保険にすでに加入している
  • 預貯金や投資資産で備えられる
  • 子どもが独立して、家族に大きな生活費を残す必要がない

これらを確認したうえで「うちには要らない」と判断するなら、それは自然な選択です。

保険は、足りない部分を補うための道具です。足りている家庭にまで重ねて持つものではありません。保険料を払い続けることで、今の家計や将来の資産形成が苦しくなるなら、本末転倒です。

相談の現場でも、保障を増やすより先に減らした方がよい家庭はあります。子どもが独立し、住宅ローンも終わり、配偶者の年金や資産で生活できる見通しが立っている。そういう家庭では、死亡保障を小さくする選択も十分あります。

問題は、そこまで確認しないまま「収入保障保険は要らない」と決めてしまうことです。

収入保障保険とは何に備える保険か

収入保障保険は、被保険者が保険期間中に亡くなった場合などに、遺された家族へ毎月一定額の給付が支払われるタイプの死亡保険です。

名前に「収入」とあるため、病気やケガで働けなくなったときの保険と混同されることがありますが、基本は死亡保障です。商品によって高度障害、障害、要介護状態などを対象にする特約や設計もありますが、支払条件は契約ごとに違います。

一般的な定期保険は、保険期間中であれば死亡保険金額が一定です。たとえば3,000万円の定期保険なら、加入直後に亡くなっても、満期直前に亡くなっても、原則として3,000万円です。

収入保障保険は、保険期間の残りに応じて、受け取れる総額が減っていきます。子どもが小さい時期ほど必要な生活費や教育費は大きく、子どもが成長するにつれて必要保障額は下がっていく。そうした家計の形に合わせやすい保険です。

表1 収入保障保険と定期保険の違い
項目 収入保障保険 定期保険
受け取り方 毎月または年金形式で受け取る設計が多い。
一括受取を選べる商品もある まとまった死亡保険金を一括で受け取る設計が一般的 保障総額 保険期間の経過とともに減っていく 保険期間中は同じ金額であることが多い 向きやすい目的 子どもの独立までの生活費不足を補う 葬儀代、相続対策、まとまった資金準備など

どちらが優れているという話ではありません。まとまったお金が必要なら定期保険の方が合う場面もあります。毎月の生活費を補う目的なら、収入保障保険の方が家計に合わせやすい場面があります。

遺族年金があるから収入保障保険は要らないのか

遺族年金は、万一の後の家族を支える大切な制度です。ここを軽く見てはいけません。

日本年金機構によると、遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。亡くなった人の年金加入状況、遺族の年齢や子どもの有無、保険料納付状況などにより、受け取れる年金が変わります。

遺族基礎年金は、亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が対象です。ここでいう子は、原則として18歳になった年度の3月31日までの子を指します。

令和8年4月分からの遺族基礎年金は、昭和31年4月2日以後生まれの子のある配偶者の場合、年額847,300円に子の加算額を加えます。子の加算額は、1人目と2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円です。

遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた人などが亡くなった場合に、条件を満たす遺族が受け取れる年金です。金額は、死亡した人の厚生年金加入期間や報酬に応じた報酬比例部分をもとに計算されます。誰でも同じ金額ではありません。

この制度があることで、民間保険で生活費のすべてを準備する必要はなくなります。収入保障保険を考えるなら、まず公的保障を差し引いて考えるのが自然です。

ただ、遺族基礎年金は子どもの年齢によって終わる時期があります。遺族厚生年金も、加入状況や報酬で金額が変わります。制度があることと、今の生活水準をそのまま維持できることは同じではありません。

遺族年金の考え方は、配偶者を亡くした後の家計でも重要になります。関連して、夫に先立たれた後のお金と暮らしでも、残された家族の生活設計について整理しています。

団体信用生命保険で住宅ローンが消えても、生活費は残る

住宅ローンを組むとき、多くの人は団体信用生命保険に加入します。住宅金融支援機構の説明でも、団体信用生命保険は加入者が死亡した場合などに、以後の住宅ローン返済が不要となる仕組みです。

この効果は大きいです。住宅ローンが残ったまま家族に引き継がれるのと、ローンが消えるのとでは、家計の見通しがまったく違います。

ただし、団信で消えるのは主に住宅ローンです。家に住み続けるためのお金まで消えるわけではありません。

表2 団信で住宅ローンが消えても残る主な支出

 
支出 確認したいこと
固定資産税 毎年支払いが続く。
家を持ち続ける限り避けられない
マンション管理費・修繕積立金 住宅ローンがなくなっても毎月発生する
戸建ての修繕費 外壁、屋根、給湯器、設備交換などまとまった支出がある
火災保険・地震保険 更新時に保険料が上がることもあり、無保険化は避けたい
生活費 食費、光熱費、通信費、車、教育費、家電買替などは続く

住宅ローンが消えれば安心、という家庭もあります。反対に、ローンが消えても毎月の生活費と教育費が足りない家庭もあります。

名古屋圏で住宅を持っている家庭では、車の維持費、子どもの通学、親の介護、実家との距離など、数字にしにくい支出も絡んできます。団信を過小評価してはいけませんが、団信だけで生活が続くかは別に見ます。

架空の家族で見る、万一後の毎月の不足額

次の家族を例に、収入保障保険を考える手順を見てみます。繰り返しますが、これは制度と考え方を説明するための架空事例です。実際の相談事例ではありません。

  • 夫42歳、会社員、手取り月35万円
  • 妻39歳、パート、手取り月10万円
  • 子ども10歳と7歳
  • 現在の生活費は住宅ローン込みで月38万円
  • 預貯金500万円
  • 夫の住宅ローンには団体信用生命保険あり

夫に万一のことがあった場合、団信で住宅ローン返済がなくなるとします。生活費は下がりますが、ゼロにはなりません。子どもの教育費、車、家の修繕、固定資産税、急な支出も残ります。

表3 架空事例で見る万一後の月次収支

 
項目 月額の目安 考え方
万一後の生活費 30万円 住宅ローンは消えるが、生活費・教育費・住居維持費は残る
妻の収入 10万円 すぐに大幅増収できるとは限らない
遺族年金 13万円 説明用の仮置き。
実際の金額は加入状況・報酬・子の年齢で変わる 毎月の不足額 7万円 この不足を貯蓄・既契約・保険などでどう埋めるかを考える

この家庭で、夫の手取り35万円をそのまま保険で置き換える必要はありません。妻の収入があり、遺族年金があり、団信で住宅ローンが消え、預貯金もあります。

見るべきなのは、足りない月7万円です。

その7万円を何年分準備するのか。子どもが独立するまでなのか、妻の働き方が変わるまでなのか。教育費のピークをどう見るのか。ここで初めて、収入保障保険の月額や期間を検討できます。

預貯金500万円があれば、月7万円の不足は約5年11か月分まかなえます。数字だけ見れば、しばらくは保険なしでも暮らせそうです。

ただ、その500万円は生活費だけのためのお金でしょうか。葬儀費用、教育費、車の買替、家の修繕、妻の老後資金、病気や災害への備えにも使う可能性があります。預貯金は自由度が高い資産だからこそ、すべてを毎月の生活費に使い切る前提で考えると、別のリスクが残ります。

逆に、預貯金や投資資産が十分にあり、配偶者の収入だけでも教育費と生活費をまかなえるなら、収入保障保険は要らないという判断も成り立ちます。

必要保障額は「毎月の不足額」から逆算する

収入保障保険を考えるとき、最初に商品名や保険料を見ると迷いやすくなります。

先に見るのは、万一後の毎月の収支です。

必要な保障月額
= 万一後の毎月の支出
- 遺族年金
- 配偶者の収入
- その他の継続収入

この計算で出た不足額を、すべて保険で埋めるとは限りません。既に加入している生命保険、勤務先の死亡退職金、弔慰金、預貯金、投資資産もあります。

一時的な支出も別に見ます。葬儀費用、引っ越し、車の買替、大学進学時のまとまった教育費、住宅修繕費などです。

収入保障保険は、細かくぴったり合わせすぎるより、少し余裕を持たせる方が現実的な場面があります。生活費は年々変わります。子どもの進路も変わります。物価も上がります。

ただし、余裕を持たせすぎれば保険料が重くなります。今の暮らしを削りすぎて、将来のための貯蓄ができなくなるなら意味がありません。

保障額は大きければ安心、少なければ賢い、というものではありません。家計の数字に合わせて過不足を見ます。

インフレで収入保障保険の価値は変わる

収入保障保険は、毎月10万円、15万円といった固定額で契約する商品が多くあります。

契約時には十分に見えた月10万円でも、10年後、20年後に同じ価値とは限りません。教育費、食費、光熱費、住居維持費が上がれば、同じ金額で買えるものは減ります。

インフレを無視すると、万一のときに保障が足りなくなることがあります。

かといって、将来の物価上昇を怖がりすぎて大きな保障を持ちすぎると、今の家計を圧迫します。特に子育て世帯は、保険料、教育費、住宅費、車、老後資金が同時に重なります。

現実的には、保険期間、将来の配偶者収入、預貯金の増え方、子どもの年齢、物価上昇を見ながら定期的に見直すことになります。契約時に一度決めた数字を、20年そのまま信じ切る必要はありません。

収入保障保険が必要になりやすい家庭

収入保障保険が合いやすいのは、万一の後に毎月の不足が長く続く家庭です。

表4 収入保障保険を検討しやすい家庭

 
家庭の状況 理由
子どもが小さく、独立まで長い 生活費と教育費が長期間必要になる
家計が一人の収入に大きく依存している 収入が途絶えると毎月の赤字が出やすい
配偶者がすぐに収入を増やしにくい 育児、介護、体調、勤務条件などで働き方に制約がある
生活費と教育費をまかなう預貯金が少ない 貯蓄を取り崩す期間が長くなる
自営業・フリーランス 会社員と比べ、公的保障や勤務先保障が薄くなりやすい
既存の死亡保障が葬儀代程度 生活費を支える保障が別に必要になる場合がある

収入が高いから必要、低いから不要、という分け方ではありません。収入が高くても支出が大きければ不足します。収入が低くても、支出が小さく資産があれば保険は要らないこともあります。

収入保障保険が要らない、または少なくてよい家庭

反対に、次のような家庭では収入保障保険の必要性は小さくなります。

  • 扶養する家族がいない
  • 子どもがすでに独立している
  • 配偶者の収入で生活費と教育費をまかなえる
  • 十分な金融資産があり、将来支出まで見通せる
  • 遺族年金、死亡退職金、既存の生命保険で不足額を補える
  • 死亡保障の目的が生活費ではなく、相続や納税資金など別の目的である

家計が万一の収入減少を吸収できるなら、収入保障保険を持たない選択は合理的です。

保険に入っていないこと自体が問題なのではありません。確認しないまま、足りていると思い込むことが問題です。

収入保障保険と就業不能保険は別物

「収入保障保険」という名前は、少し誤解を招きやすい名前です。

収入が減ったときに何でも保障してくれる保険ではありません。基本は、被保険者が亡くなった場合などに家族へ死亡保障を残す保険です。

病気やケガで働けない状態に備える保険は、就業不能保険、所得補償保険、傷病手当金、公的な障害年金など、別の仕組みで考えます。

商品によっては、高度障害、障害状態、要介護状態などで給付される設計もあります。ただ、対象となる状態、待機期間、給付期間、免責事項は商品ごとに違います。

名前だけで判断せず、契約概要、注意喚起情報、約款で「どの状態なら支払われるのか」を確認してください。

私が相談の現場で重視していること

相談を受けるとき、最初に商品を選ぶことはほとんどありません。

先に描くのは、万一の後の生活です。

家族は今の家に住み続けるのか。子どもはどの進路を希望しているのか。配偶者は働く時間を増やせるのか。住宅ローンは団信で消えるのか。遺族年金はいくら見込めるのか。預貯金のうち、生活費として取り崩してよいお金はいくらなのか。

その順番で見ていくと、必要な保障は自然に見えてきます。

保障額が大きすぎる家庭より、根拠のない安心感によって保障不足を見落としている家庭も少なくありません。

ただ、だからといって保険を厚くすればよいわけでもありません。保険料を払いすぎれば、教育費や老後資金の準備が遅れます。家計全体で見れば、そちらの方が大きな問題になることもあります。

保険は、生活の不安を消すものではなく、数字で見えた不足を補うものです。

まとめ

「収入保障保険は要らない」という判断が正しい家庭はあります。

十分な資産がある。配偶者の収入で生活と教育費をまかなえる。遺族年金や既存の死亡保障で不足が出ない。そういう家庭なら、あえて収入保障保険を持たない選択も自然です。

ただし、遺族年金があるから、団信があるから、NISAをしているから。それだけで不要と決める前に、ひとつだけ確認してほしいことがあります。

万一の後、家族の毎月の収入で、生活と将来の予定を維持できるか。

不足がなければ、保険は要りません。不足があるなら、預貯金、公的保障、勤務先の制度、既存の生命保険を確認し、それでも残る部分だけをどう備えるか考えます。

保険は多ければ安心でも、少なければ賢いわけでもありません。

家族ごとの必要保障額を数字で確認し、過不足なく備えることが大切です。細かい計算を完璧に合わせることより、残された家族の生活が続けられるかを見ること。その判断を一緒に整理するのが、専門家の役割だと思っています。

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この記事を書いた人・編集監修

Hajime Maeda。AFP。保険、資産形成、退職金、老後資金、相続、教育費など、家計全体に関する相談業務に20年以上従事。制度や商品の一般論だけで結論を出すのではなく、相談者の家計、働き方、家族構成を踏まえ、判断に必要な情報を整理することを重視している。

出典・参考

本記事は2026年8月時点で公表されている制度情報をもとに作成しています。遺族年金の受給要件や金額、保険商品の支払条件は、制度改正や契約内容により変わる場合があります。実際の受給可否や金額は、年金事務所、保険会社、契約書類などで確認してください。

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