ブログ
BLOG
最終更新日:2026年7月15日
この記事では、次の3つを中心にお伝えします。
- 「がん保険は要らない」と言われる理由と、その根拠
- 高額療養費制度だけでは見えにくい家計への影響
- 私が実際に関わった4つの相談事例から見えてきた、本当に備えるべきリスク
20年以上、この仕事をしていると、何度も受ける質問です。
でも私は、すぐに「必要です」とも、「要りません」とも答えません。
その理由があります。
十分な預貯金があり、数か月から数年の収入減少にも耐えられる家計なら、民間の保険に頼らず、自分の資産で備える選択もあります。高額療養費制度があります。会社員などであれば、条件を満たせば傷病手当金を受け取れることもあります。年齢別に見れば、若い世代のがん罹患率は高齢期ほど高くありません。
「がん保険はいらない」という意見には、たしかに合理的な面があります。
ただ、20年以上相談を受け、実際の給付手続きにも関わってきた中で見てきたのは、医療費だけでは説明できない現実でした。
治療が長引いて働けない。店を開けられない。通院のために暮らしの予定が変わる。本人だけでなく、家族も短い時間で大きな判断を迫られる。
がん保険の加入を勧めるために書くのではありません。「がん保険はいらない」という考えを否定するためでもありません。
公的データと実際の相談事例を材料に、がんになったとき家計や生活に何が起こり得るのかを見ていきます。読みながら、ご自身の働き方や家計ならどうなるかを一度置き換えてみてください。
がん保険不要論でよく出てくる理由は、だいたい次のようなものです。
これらは、どれも的外れではありません。
高額療養費制度は、公的医療保険の中でも非常に心強い制度です。保険診療の医療費が高額になっても、年齢や所得に応じて自己負担には上限が設けられています。
家計に余力があり、治療中の生活費や収入減少まで自分で受け止められる人に、無理にがん保険を持つ理由はありません。毎月の保険料を投資や貯蓄に回し、必要なときは手元資金から支払う。それも一つの考え方です。
ただ、公的制度があることと、自分の家計が困らないことは同じではありません。
平均的な医療費、一般的な制度、SNSで見かける意見。それだけで自分の結論を出すと、見落とすものがあります。家計は人によって違います。働き方も、貯蓄も、家族の支えも違います。
では、あなたの家計ではどうでしょうか。
日本人の2人に1人が、生涯のうちにがんになる。
この言葉はよく知られています。
国立がん研究センターのがん統計では、日本人が生涯でがんと診断される確率は、男性が約6割、女性が約5割とされています。
ただし、これは文字どおり「生涯」の数字です。
このデータは、「ある年齢に達するまでに、これまでに少なくとも1回はがんと診断されたことがある人の割合(=累積確率)」を示しています。

国立がん研究センターの実データを使った年齢とともに積み上がる、一生のうちにがんに罹る確率のグラフです。。若い世代では高齢期ほど高くなく、年齢が上がるにつれて累積リスクが高まることが分かります。
40代や50代だけの確率ではありません。高齢期まで含めた、生涯累積罹患リスクです。
「2人に1人」という数字だけを切り取って、若い人にも同じ確率でがんが起こるかのように伝えるのは正確ではありません。年代別の罹患率を見ると、若い世代では高齢者ほど高くありません。年齢が上がるにつれ、罹患率も上がっていきます。
がん保険不要論の中で、
「2人に1人という数字は、生涯全体の話だ」
「若い年代の罹患率は、そこまで高くない」
と指摘されることがあります。
これは、そのとおりです。
ただ、確率が低いことと、実際に罹患したときの家計への影響が小さいことは別です。現役世代でがんになる人は多数派ではありません。それでも、なったときに仕事や生活へ及ぶ影響は小さくないことがあります。
数字を見るときは、「どれくらい起こるか」と同時に、「起きたとき自分の家計はどこまで耐えられるか」も見ておきたいところです。
国立がん研究センターの「令和5年度患者体験調査」では、がんと診断された時点で収入のある仕事をしていた人のうち、53.4%が、がん治療のために休職・休業を経験しています。
さらに、19.4%が退職・廃業を経験しており、そのうち58.3%は、治療を始める前に仕事を辞めていました。
休職・休業と退職・廃業には重複する人が含まれる可能性があるため、53.4%と19.4%を足して「72.8%が仕事を離れた」と読むことはできません。
それでも、診断時に働いていた人の半数以上が、一度は治療のために仕事を休んでいる。この事実は重いものです。

治療費は高額療養費制度で見通しが立つことがあります。けれど、休職中の給与、勤務時間の短縮、退職、廃業まで制度がそのまま埋めてくれるわけではありません。
住宅ローンや家賃、教育費、食費、光熱費は、治療が始まっても止まりません。自営業者なら、自分が働けないことがそのまま売上の減少につながることもあります。
がんの家計リスクは、病院へ支払う医療費だけを見ても分かりません。
高額療養費制度は、がん治療を考えるうえで欠かせない制度です。
たとえば、2026年7月時点の現行制度で、70歳未満、年収約370万円から約770万円の人が、1か月に総額100万円の保険診療を受けたとします。
窓口での3割負担は、本来30万円です。
高額療養費制度を利用すると、自己負担限度額は次の計算になります。
8万100円+(100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円
このケースでは、30万円のうち21万2,570円が高額療養費の対象となり、実際の自己負担は8万7,430円まで抑えられます。
マイナ保険証などで限度額情報を医療機関へ提供できれば、窓口で最初から自己負担限度額までの支払いにできる場合もあります。
この制度は本当に大きいです。相談現場でも、高額療養費制度を前提に考えることで、治療費の見通しが立ち、少し落ち着いて話ができる場面があります。
ただし、8万7,430円に、入院中の食事代や差額ベッド代などは含まれません。同じ100万円の治療でも、年齢、所得、同じ月に受診した医療機関、世帯合算の状況などで実際の負担額は変わります。
制度が支えるのは、原則として保険診療の自己負担部分です。次のような支出は、別に見ておきたいところです。
公的制度を否定する話ではありません。高額療養費制度は優れた制度です。そのうえで、制度が支える範囲と、家計で支える範囲を分けて見る視点が欠かせません。
会社員など健康保険の被保険者は、一定の条件を満たすと傷病手当金を受け取れる場合があります。
仕事を休んだ初日から出るわけではありません。療養のために仕事を休み始めた日から、まず連続する3日間の待期期間があり、その後の4日目以降の休業日が支給対象になります。この3日間には、有給休暇や土日、祝日を含めることができます。
支給期間は、実際に傷病手当金が支給された日を合計して、通算1年6か月に達するまでです。
1日あたりの支給額は、原則として次の計算で求めます。
支給開始日前12か月間の標準報酬月額の平均÷30日×3分の2
たとえば、標準報酬月額の平均が30万円の場合、1日あたりの支給額の目安は約6,667円です。30日分がすべて支給対象なら、月額換算で約20万円になります。
給与がゼロになるより、はるかに大きな支えです。
ただ、通常の給与がそのまま入るわけではありません。賞与や残業代が減ることもあります。毎月の固定費が大きい家庭では、収入が3分の1減るだけでも家計は急に苦しくなります。
自営業者やフリーランスが加入する国民健康保険には、会社員と同じ傷病手当金が原則としてありません。働けない期間が、そのまま売上の減少になることがあります。
同じ年齢、同じ病名でも、会社員と自営業者では家計への影響がまったく違う。ここを見落とすと、「医療保険で足りるか」「がん保険が必要か」という判断もずれてしまいます。
ここからは、実際に関わった相談や給付手続きをもとにした事例です。
個人が特定されないよう、年齢、職業、家族構成、時系列などは一部変更し、再構成しています。
同じ「がん」でも、困ったことはそれぞれ違いました。
数字を見ると、全体の傾向は分かります。
でも、相談現場では「平均的ながん患者」は一人もいませんでした。
ここからは、実際に私が関わった4人のケースをご紹介します。
50代後半の女性。飲食店を経営していました。
がんと診断された後、治療は長く続きました。入院して、退院する。しばらくすると、また入院する。そんな生活が数年間続きました。
最初の罹患から亡くなるまで、約15年。長い闘病でした。
医療費については、ある程度の見通しが立ちました。治療は主に保険診療で行われ、高額療養費制度も使えたからです。個室を利用したときの費用など、制度の対象外となる支出はありました。それでも、病院へ支払う医療費だけが最大の問題だったわけではありません。
苦しかったのは、店を開けられない日が増えたことでした。
飲食店は、店主が長く不在でも普段どおりに回る仕事ではありません。体調が悪くても、家賃は発生します。仕入れや人件費もあります。売上が落ちても、支払いは待ってくれません。
医療費は、何とかなった。
でも、
売上は止まった。
店は、待ってくれませんでした。
最終的に、その方は店を畳むことになりました。
会社員であれば、条件を満たすことで傷病手当金を受け取れる場合があります。自営業者には、原則として同じ仕組みがありません。働けなくなったことで、医療費より先に収入そのものが途絶えたのです。
この方は、当時としては一般的だった入院日額型のがん保険に加入していました。入院日数に応じた給付金、手術給付金、診断一時金、通院給付がありました。診断一時金は、一定期間が経過すれば再度受け取れるタイプでした。
長い治療の中で、それらの給付金が生活を支える一部になったことは事実です。
ただ、「がん保険に入っていたから安心だった」という話にはできません。保険金で病気が治るわけではありません。店を失うつらさが消えるわけでもありません。
それでも、給付の場面に立ち会って分かったことがあります。がん保険から支払われるお金は、治療費だけに使われるとは限りません。働けない期間の生活をつなぐお金になることがあります。
この経験が、私の考え方を変えました。
それまで考えていた「医療費への備え」だけでは足りない。
働けなくなったとき、生活そのものをどう支えるか。
がん保険を見る視点が、ここで初めて変わりました。
40代で盲腸がんと診断された会社員男性です。
手術を受け、一度は治療を終えました。日常生活にも戻られました。
ところが、約3年後に再発しました。
再び治療が始まり、病状は少しずつ進行していきました。最後の約2か月はホスピスで過ごし、49歳前後で亡くなられました。
49歳で、自分に残された時間を受け入れなければならない。
それは、簡単に言葉にできることではありません。
残された時間を受け入れようとする日もあれば、
受け入れられない日もあった。
そばで支えていたのは、奥様とご家族です。
診断や治療の説明を一緒に聞く。これからのことを考える。本人の不安を受け止める。家族にも、表には出にくい負担がかかります。
この方には、がん保険の給付がありました。ホスピスの費用を含め、お金の面で助かった部分はありました。
けれど、保険金で悲しみが軽くなるわけではありません。本人の不安が消えるわけでもありません。家族の気持ちの負担がなくなるわけでもありません。
それでも、病気そのものと向き合う時間に、お金の心配まで重なりすぎないようにする。保険に役割があるとすれば、その程度の、しかし現実には大きな支えなのだと思います。
40代前半の女性です。
パートで働きながら、夫の両親と同居していました。乳がんと診断され、入院と手術を受けました。
入院中は、加入していた医療保険から給付金が出ました。手術給付金もありました。夫の収入があり、同居の家族から家事や生活面の支援も受けられました。家計への影響は、先ほどの自営業者ほど大きくはありませんでした。
問題は、退院してからでした。
ホルモン療法などの通院治療が長く続いたのです。入院は終わっても、治療は終わらない。病院へ通う日があり、体調が揺れる日があり、生活の中に治療が入り続ける。
当時加入していたのは、一般的な医療保険でした。入院と手術には備えられていました。しかし、退院後に続く長期の通院治療では、給付の対象にならない場面が多くありました。
この事例には、今でも反省があります。
保険業界に入った初期の頃、がん保険は特に必要ないのではないかと考えていました。医療保険に入っていれば、入院や手術には備えられる。高額療養費制度もある。それで十分ではないか。
そう思っていたため、この方に、がん保険という選択肢を十分に説明しませんでした。
後になって見たのは、入院よりも長く続く通院治療でした。医療保険で給付が終わった後も、治療と生活は続いていました。
後悔したのは、「がん保険に加入してもらえばよかった」という単純な話ではありません。
入るか、入らないかを決めるのはお客様です。十分な貯蓄があり、必要ないと判断する人もいます。それでよいのです。
本当に後悔したのは、判断材料を渡していなかったことでした。
通院治療が長くなる可能性があること。入院中心の医療保険では、退院後の治療が給付対象にならない場合があること。がん保険には、診断一時金や治療給付金など、医療保険とは違う仕組みがあること。
それを知ったうえで「入らない」と選ぶのと、知らないまま選択肢にも上がらないのとでは、まったく意味が違います。
知らなければ、選べません。
知らなければ、選ぶこともできないからです。
保険を勧めることより先に、判断に必要な情報を渡すこと。相談者が自分で選べる状態をつくること。
今振り返ると、この経験は、お客様だけでなく私自身にも必要だったのだと思います。
この出来事がなければ、今でも私は「医療保険だけで十分」と考えていたかもしれません。
あの頃のお客様には、本当に教えていただきました。
保険とは、加入することが目的ではありません。
自分に必要かどうかを、自分で判断できること。
そのための情報を届けることこそ、私の仕事なのだと考えています。
20代で悪性リンパ腫と診断された女性です。
診断後、医師から治療について説明を受けました。本人には、治療そのものへの不安に加えて、将来子どもを持ちたいという希望がありました。
病気のこと。治療のこと。仕事のこと。家族のこと。将来のこと。
それらが一度に目の前に来ました。
ある日、本人から電話がありました。
「できれば、ほかの話も聞いてみたい」
という相談でした。
医師ではないので、治療法を決めることも、効果を評価することもできません。そこは医療者の領域です。
できることは、相談先を探すことでした。
本人が一人で抱え込まないよう、複数の医療機関や相談窓口につなぎました。本人と一緒に話を聞きに行ったこともあります。
ここで特定の治療法について書くつもりはありません。何かの治療によって寛解したと断定することもできません。現在は寛解していますが、その因果関係をこの記事で語るべきではないと考えています。
このケースで考えたいのは、治療法の良し悪しではありません。
がんと診断されると、医療だけでなく、仕事、家族、将来の選択まで同時に迫られることがあります。そのとき、誰に相談するかで、本人の判断は大きく変わります。
まず主治医の説明を十分に聞く。必要に応じて、専門医によるセカンドオピニオンを受ける。公的機関や信頼できる相談窓口を利用する。
相談相手は、慎重に選んだ方がよい。20代のこの方との関わりで、強く感じたことです。
最初から、がん保険の必要性を強く感じていたわけではありません。
保険業界に入ったばかりの頃は、
「医療保険に入っていれば、がん保険まではいらないのではないか」
と考えていました。
入院したら給付金が出る。手術を受けたら手術給付金が出る。高額療養費制度もある。それなら大きく困らないのではないか。
パンフレットだけを見ていると、そう見えました。
考えが変わったのは、実際のお客様ががんになり、治療後の生活を見るようになってからです。
長期間働けず、店を畳んだ人。退院後も何年も通院治療が続いた人。再発し、家族と残された時間に向き合った人。診断後、短い時間でいくつもの相談先を探さなければならなかった人。
がん保険がすべてを解決するわけではありません。保険金で病気が治るわけでも、家族の不安がなくなるわけでもありません。
ただ、医療保険だけでは届かない場面があることも、相談現場で何度も見てきました。
今、大切にしているのは、がん保険を勧めることではありません。入るかどうかを判断するために、何が起こり得るのかを先に渡すことです。
必要ないと判断するなら、それでよい。けれど、知らないまま「いらない」と決めてしまうのは、少しもったいない。制度、治療の実態、自分の家計。その3つを見たうえで選んでほしいと思っています。
ここまで4つのケースをご紹介してきました。
同じ「がん」でも、困ったことはまったく違いました。
収入が止まった人。
通院治療が長く続いた人。
家族の負担が大きかった人。
治療法そのものに悩んだ人。
だから、「がん保険があれば安心」とも、「がん保険はいらない」とも、一言では言えません。
大切なのは、
何に困る可能性があるのか。
そして、
その不足を何で補うのか。
という順番で考えることです。
預貯金で備える人もいます。
公的制度で十分という人もいます。
がん保険を活用する人もいます。
正解は一つではありません。
まず考えたいのは、
「何に備えるか」
です。
がん保険といっても、保障の形は一つではありません。
以前は、入院日額を中心とした保障が一般的でした。入院した日数に応じて給付金が支払われ、手術を受ければ手術給付金が出る形です。
今のがん治療は、長期入院だけが中心ではありません。入院期間が短くなり、抗がん剤治療、ホルモン療法、放射線治療などを通院で長く続けるケースがあります。
そのため、現在のがん保険には、入院日数だけでなく、診断や治療の継続に応じて給付する仕組みが増えています。
がんと診断されたときに、まとまった金額を受け取るタイプです。
使い道が治療費に限定されない商品も多く、生活費、通院交通費、収入減少、家族の支出などに充てることができます。
初回だけ受け取れるものもあれば、一定の条件を満たすことで複数回受け取れるものもあります。以前は、2年に1回など、再度受け取るまでの間隔が長い設計も多く見られました。現在は、1年に1回の設計や、商品によっては180日に1回受け取れる仕組みもあります。
ただ、2回目以降の給付条件には違いがあります。再度入院することが条件の商品もあれば、所定の通院治療を受けていれば対象になる商品もあります。同じ「診断一時金」という名前でも、中身は同じではありません。
抗がん剤治療、ホルモン療法、放射線治療など、所定の治療を受けた月に給付金が支払われるタイプです。
乳がんのホルモン療法など、治療が数年に及ぶケースでは、入院日額型とは違う役割を持つことがあります。
ただし、すべての薬剤や治療が対象になるわけではありません。経口薬が対象になるか。ホルモン療法が含まれるか。自由診療の治療も対象になるか。給付回数や期間に上限があるか。商品ごとに条件は大きく異なります。
実際に負担した治療費を、契約で定められた範囲内で補うタイプもあります。
「かかった費用が何でも全額出る」という意味ではありません。対象となる治療や費用、限度額、給付期間、自由診療の扱いは商品ごとに異なります。
公的医療保険の対象となる自己負担分を補うもの。所定の自由診療まで対象とするもの。通院交通費や差額ベッド代などは対象外となるもの。契約内容によって範囲は変わります。
がん保険は、商品名や保険料だけで選ぶものではありません。
診断直後の生活費なのか。長期間続く治療なのか。働けない期間の収入減少なのか。保険診療以外の治療費なのか。
何に備えたいのかが変われば、見るべき保障も変わります。
私が相談で最初に確認するのは、「どの商品がいいですか?」ではありません。
「何が一番心配ですか?」です。
ここが違えば、選ぶ保障も変わります。
がん保険が必要かどうかは、一般論だけでは決まりません。
まず、一定期間働けなくなった場合を想定して、家計の数字を見てみます。
会社を休んだ場合、給与はどこまで支払われるのか。傷病手当金の対象になるのか。有給休暇は何日あるのか。
自営業であれば、自分が働けなくなったとき、売上はどの程度残るのか。
住宅ローンや家賃、教育費、自動車ローン、保険料、通信費。
事業をしている人であれば、店舗や事務所の家賃、人件費、リース料などもあります。治療中も続く支出が、毎月いくらあるかを確認します。
資産があっても、すぐに現金化できない場合があります。
治療や生活のために、すぐ使えるお金がどれだけあるか。そのお金で何か月生活できるか。家計全体の資産額ではなく、当面使える資金を見ます。
配偶者の収入だけで生活を維持できるか。家事や育児、通院の付き添いを頼める人がいるか。
家族の支援がある人と、すべて自分で対応しなければならない人では、必要な備えも変わります。
通院治療は、入院より負担が軽いとは限りません。
治療のために仕事を休む。副作用で働けない日がある。病院までの移動に時間がかかる。家族が付き添う。
医療費以外の時間的、生活上の負担も見ておきたいところです。
預貯金や公的保障で十分対応できるなら、がん保険に加入しない選択もあります。不足する部分があるなら、保険だけでなく、貯蓄、医療保険、就業不能保障など、複数の方法で補うことを考えます。
保険は、不足を埋める手段の一つです。
今は、公的制度や保険の仕組みをAIに聞けます。
高額療養費制度の概要を調べる。傷病手当金の条件を整理する。保障内容を比較する。自分の家計の前提を入れて、ざっくり試算する。
こうした作業にAIはかなり役立ちます。オンラインで保険会社と直接契約することもできます。商品説明と申込手続きだけなら、人を介さずに終わる場面は今後さらに増えるはずです。
では、人に相談する意味はなくなるのか。
相談現場にいると、そこは少し違うと感じます。
人が関われるのは、制度の説明だけではありません。相談者がまだ言葉にできていない事情を一緒に整理することがあります。
これまでどんな経験をしてきたのか。家族との関係はどうか。何を不安に感じ、何を優先したいのか。どの情報があれば、納得して決められるのか。
必要に応じて、医師、税理士、社会保険労務士、弁護士など、別の専門家へつなぐこともあります。
20代女性のケースでも、治療法を決めたわけではありません。本人が納得して判断できるよう、相談先を探し、必要な人へつないだだけです。
AIと人は、対立するものではありません。役割が違います。
私も、制度を調べたり、考えを整理したりするときにはAIを日々活用しています。
便利になったと思います。
だからこそ、これから人に求められる役割は、商品を説明することではなく、相談者自身も気づいていない課題を一緒に整理することなのだと思っています。
人は、その人の背景や迷いまで含めて考えることができる。どちらを使う場合も、情報の出所と相談相手の姿勢は確かめた方がよいと思います。
高額療養費制度によって、保険診療の自己負担は一定範囲に抑えられます。ただし、生活費、収入減少、差額ベッド代、交通費などは別に考えます。預貯金や公的保障で負担できるなら、がん保険に加入しない選択もあります。
医療保険は、病気やケガによる入院や手術を幅広く保障する設計が一般的です。がん保険は、診断一時金や抗がん剤治療、ホルモン療法など、がん特有の治療に対応する保障を持つ商品があります。
商品によって異なります。「通院保障あり」と書かれていても、すべての通院が対象になるとは限りません。対象となる治療や薬剤、給付回数など、約款上の支払事由を確認します。
使途が限定されていない商品であれば、治療費だけでなく、生活費、収入減少、交通費、家族の支出などに使うことができます。複数回給付の条件は商品ごとに異なります。
がん保険は、家計上の負担の一部を補う手段です。治療の結果や生活全体を保証するものではありません。公的制度、預貯金、働き方、家族の支援と合わせて考えます。
高額療養費制度があります。傷病手当金を受けられる人もいます。十分な預貯金があり、保険を使わずに備えられる人もいます。
それでも、長く働けなくなったとき、保険から支払われるお金が生活をつなぐこともあります。
がん保険が必要かどうかは、制度だけでも、平均だけでも決まりません。
収入はいくら残るのか。固定費はいくら続くのか。預貯金で何か月生活できるのか。自分が働けないとき、家族や事業はどうなるのか。
そこまで見てから、入るか、入らないかを決めればよいと思います。
実務を通じて学んだのは、保険を勧めることよりも、判断材料をきちんと渡すことの大切さでした。
保険に入ることが正解でもありません。
入らないことが正解でもありません。
ただ一つ言えるのは、
知らなければ、選ぶことはできない。
この記事が、ご自身やご家族の家計を見直すきっかけになれば幸いです。
私はこれからも、保険に入るための情報ではなく、納得して選ぶための情報を届けていきたいと思っています。
この記事を書いた人・編集監修
Hajime Maeda。AFP。保険、資産形成、退職金、老後資金、相続、教育費など、家計全体に関する相談業務に20年以上従事。制度や商品の一般論だけで結論を出すのではなく、相談者の家計、働き方、家族構成を踏まえ、判断に必要な情報を整理することを重視している。
個別相談ご希望の方は
こちらからお問い合わせください。