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最終更新日:2026年7月14日
この記事の結論を先にお伝えします。
私は「医療保険は絶対に必要です」と言いたいわけではありません。
逆に、「医療保険はいりません」とも言いません。
この記事でお伝えしたいのは、「平均」や一部の情報だけで人生の大きな判断をしてはいけないということです。
YouTube、Instagram、X(旧Twitter)などのSNSを見ると、
「医療保険はいらない」
という情報を見かけない日はありません。
理由としてよく挙げられるのは、
確かに、どれも一定の事実です。
だからこそ、多くの人が
「医療保険って本当に必要なの?」
と疑問を持つのは自然なことです。
しかし、私は保険業界で20年以上、多くのお客様の病気や入院、保険金請求に携わってきた立場として、一つだけ強く感じていることがあります。
それは、
「一部の事実だけを切り取ると、本来見えるはずのリスクが見えなくなる。」
ということです。
この記事は、
「保険営業だから医療保険を勧める記事」
ではありません。
また、
「保険会社の利益を守るための記事」
でもありません。
私はむしろ、
保険が不要な人には不要だとはっきり伝えています。
十分な金融資産があり、
仮に長期間働けなくなっても生活が維持できる。
そういう方まで無理に保険へ加入する必要はありません。
しかし一方で、
「SNSで見たから」
「インフルエンサーが言っていたから」
という理由だけで保険を解約してしまう方を見ると、本当にそれで大丈夫なのかと心配になることがあります。
そこで今回は、
感情論ではなく、公的データをもとに一緒に考えてみたいと思います。
この記事で一番お伝えしたいことがあります。
それは、
平均は、あなたの人生を保証してくれません。
ということです。
例えば、
日本人男性の平均寿命は約81歳です。
では全員が81歳まで生きるでしょうか。
もちろん違います。
60代で亡くなる方もいます。
90歳を超えて元気に暮らす方もいます。
平均年収もそうです。
平均気温もそうです。
平均とは、
「世の中全体ではこういう傾向があります」
という数字に過ぎません。
それは、
あなた自身を表している数字ではありません。
この考え方は、医療保険を考えるうえでも非常に重要です。
医療保険不要論で必ず紹介されるデータがあります。
それは、
「ほとんどの人は短期間で退院している」
というものです。
実際に厚生労働省の「令和2年患者調査」でも、
退院患者の93.2%は2か月以内に退院しています。
この数字だけを見ると、
「やっぱり長期入院なんてほとんどないんだ。」
と思うかもしれません。
実際、このデータは保険会社だけでなく、医療保険不要論を主張する記事や動画でも頻繁に引用されています。
しかし、
ここで一つ立ち止まって考えていただきたいことがあります。
今回参考にした資料には、
もう一つ非常に興味深いグラフがあります。
それは、
「現在入院している患者」
を対象にしたデータです。
こちらを見ると、
2か月以内の入院は67.9%。
つまり約3割の方は、
2か月を超えて入院しています。
さらに見ると、
となっています。
つまり、
現在入院している患者のおよそ4人に1人は、3か月以上の入院となっているのです。
この事実は、
医療保険不要論でも、
保険会社のパンフレットでも、
あまり大きく語られません。
しかし私は、
この数字こそ非常に重要だと考えています。
ここで誤解しないでいただきたいのですが、
退院患者のデータも、
入院患者のデータも、
どちらも正しいデータです。
問題は、
どちらだけを見るかです。
退院した人だけを見れば、
短期間で退院する人が多い。
一方、
今まさに病院にいる患者を見ると、
長期入院している方も決して少なくありません。
つまり、
見る角度によって、
同じ医療の世界でも印象はまったく変わるのです。
もしあなたが、
93.2%の側になれば、
医療保険は必要なかったと思うかもしれません。
しかし、
もし数%の長期入院側になったらどうでしょう。
病気は、
平均通りに起こるものではありません。
人生も、
統計通りには進みません。
だから私は、
「平均」を否定したいわけではありません。
しかし、
平均だけを見て人生の備えを決めることには、大きな違和感があります。
ここまで読んで、
こう思われる方もいるでしょう。
「でも、高額療養費制度があるから医療費はそんなにかからないのでは?」
確かに、その通りです。
高額療養費制度は、日本が世界に誇る非常に優れた制度です。
だからこそ、
医療費そのものだけを考えれば、
民間の医療保険が不要な人もいるでしょう。
しかし、
ここで一つ考えていただきたいことがあります。
高額療養費制度は、「医療費」を助ける制度です。
では、
病気になった後の生活そのものは、
誰が支えてくれるのでしょうか。
高額療養費制度は、日本の素晴らしい社会保障制度です。
一定以上の医療費については自己負担額に上限があります。
だから、
SNSでよく見る
「医療費なんて10万円程度ですよ。」
という話も、間違いではありません。
しかし、
ここで一つ考えてみてください。
病気になったとき、
本当に困るのは医療費だけでしょうか。

これもSNSでよく見かけます。
「会社員なら傷病手当金がある。」
確かにあります。
非常にありがたい制度です。
しかし、
傷病手当金は、一定の支給要件を満たす場合に、給与のおおよそ3分の2が目安です。
つまり、
約3分の1は収入が減ることになります。
年収600万円なら、
年間約200万円近い差になる可能性があります。
しかも、
賞与の影響や各家庭の支出状況によっては、
実際の生活はさらに厳しくなることもあります。

病気になったからといって、
住宅ローンは待ってくれません。
家賃も変わりません。
電気代も、
ガス代も、
水道代も、
通信費も、
車のローンも、
子どもの教育費も、
すべて今まで通り請求されます。
つまり、
病気になっても生活そのものは止まらないのです。

高額療養費制度は、医療費の自己負担を抑える非常に重要な制度です。
しかし、現在の自己負担限度額が、10年後、20年後も同じ水準で続くと考えてよいのでしょうか。
実際に、高額療養費制度は2026年8月と2027年8月に段階的な見直しが予定されています。
| 現行制度 | 2026年8月以降(予定) | 2027年8月以降(予定) |
|---|---|---|
| 70歳未満・年収約370万円から約510万円の区分では、 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
同じ区分では、 85,800円+(医療費-286,000円)×1% へ見直される予定です。 |
所得区分がより細分化され、年収や標準報酬月額に応じて自己負担限度額が変わる予定です。 |
| 長期療養者への配慮として、多数回該当の金額を維持し、2026年8月から新たに年間上限を設ける予定とされています。 | ||
※掲載内容は記事更新日時点の制度改正情報をもとにしています。今後の法改正、政省令、施行時期の変更などにより、内容が変わる可能性があります。最新情報は厚生労働省または加入している健康保険へご確認ください。
例えば、70歳未満で年収約370万円から約510万円の所得区分では、月額の自己負担上限が、現行の「80,100円+(医療費-267,000円)×1%」から、2026年8月以降は「85,800円+(医療費-286,000円)×1%」へ変更される予定です。
さらに2027年8月以降は、所得区分が細分化され、年収や標準報酬月額によって自己負担額が変わる仕組みが予定されています。
ここで重要なのは、単純に「負担が増える」という話だけではありません。
厚生労働省の公式ページでは、今回の見直しについて、令和8年8月と令和9年8月からの実施を予定していると案内されています。
また、同ページでは「今後、所要の法令改正を予定」とされているため、記事更新日時点では、実施時期や細かな制度内容について今後の法令改正や政省令で確認が必要な部分があります。
つまり、「決まったから必ずこの通りになる」と断定するのではなく、現時点で公表されている制度改正情報として、家計上の前提に入れておくべき内容だと考えるのが自然です。
今回の見直しでは、長期療養者への配慮として、多数回該当の金額を維持することや、年間上限を設けることも盛り込まれています。
公的制度がなくなるわけではありません。むしろ、制度を持続させるために、負担と保護の仕組みそのものが変わっていくという見方が大切です。
もう一つ考えておきたいのが、物価と賃金の関係です。
物価と賃金が同じ割合で上昇すれば、家計全体の負担感は大きく変わらないかもしれません。
しかし、物価の上昇に賃金が追いつかなければ、実質的に使えるお金は減ります。
その状況で、医療費の自己負担額が上がる、食費や光熱費も上がる、住宅費や教育費は引き続き発生する、病気やケガによって収入が減る、ということが重なれば、家計への影響は今より大きくなる可能性があります。
重要なのは、高額療養費制度を信用しないことではありません。
制度は非常に重要です。
しかし、「制度があること」と「将来の家計に余裕があること」は別問題です。
公的制度を前提にしながらも、制度変更や物価上昇が起きた場合に、自分の家計がどこまで耐えられるのかを考えておく必要があります。
これは、医療保険に入るかどうかを急いで決めるための話ではありません。平均や現在の制度だけを見て判断せず、将来の制度変更も含めて、家計全体のリスクを整理するための視点です。
ここからは、
数字では表せない話になります。
ご主人が長期間働けなくなったとします。
奥様はどうでしょう。
仕事をしながら、
病院へ通い、
家事をし、
子どもの世話をし、
精神的にも家族を支えなければならないかもしれません。
子どもが小さければ、
保育園や学校の送り迎えもあります。
介護が必要になれば、
さらに負担は増えます。
こうした負担は、
高額療養費制度では補償されません。
これは私が20年以上この仕事をして感じることです。
健康なときは、
誰でも冷静です。
「貯金があるから大丈夫。」
「なんとかなる。」
そう考える方も多いでしょう。
しかし、
医師から
「しばらく仕事は難しいですね。」
と言われた瞬間、
人の心理は変わります。
冷静に家計を計算できる人は、
実はそれほど多くありません。
病気そのものへの不安。
家族への申し訳なさ。
仕事への焦り。
将来への恐怖。
こうした感情が一度に押し寄せます。
だから私は、
保険とは
病気を治す商品ではなく、不安を小さくするための仕組み
だと考えています。
もちろん、
その役割を貯蓄で果たせる方もいます。
それなら医療保険は不要でしょう。
しかし、
その判断は
「医療保険はいらない」という言葉だけで決めるべきではない
と思うのです。
もしあなたが、
十分な貯蓄があり、
数年間働けなくなっても、
家族の生活を維持できるなら、
医療保険は必要ないかもしれません。
しかし、
そうではないのであれば、
一度立ち止まって考えてみてください。
医療保険に入ることが正解なのではありません。
医療保険に入らないことが正解なのでもありません。
大切なのは、
あなた自身がリスクを理解し、そのリスクを何でカバーするのかを決めることです。
なお、がんに限定した備えについては、医療保険とは少し分けて考える必要があります。診断後の治療費だけでなく、通院が長く続く場合や収入が下がる場合の家計への影響を整理した記事は、がん保険は要らない?20年以上の相談現場で見えてきた、本当に備えるべき家計リスクでまとめています。
この記事でお伝えしたかったことは、たった一つです。
SNSやYouTubeには、
「医療保険はいらない。」
という情報が数多くあります。
その中には正しいものもあります。
しかし、
その情報は、
「平均」の話であることが少なくありません。
そして、
人生は平均どおりには進みません。
病気も、
事故も、
家計も、
家族の状況も、
一人ひとり違います。
だからこそ、
「医療保険はいる・いらない」
という二択ではなく、
「もし自分が平均ではない側になったとき、家族は本当に困らないだろうか。」
という視点で、一度考えてみてください。
この記事を書いた人・編集監修
Hajime Maeda。AFP、実務経験20年。退職金、老後資金、保険、相続、教育費など、家計全体を整理する相談業務を行っています。記事では制度の一般論だけで結論を急がず、実際の家計で確認すべき順番を重視しています。
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