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「生命保険は要らない」は本当か?死亡率ではなく遺された家族の生活で考える

2026.08.06

「生命保険は必要ですか?」

この質問を受けたとき、私はすぐに「必要です」とは答えません。反対に、「いりません」と言い切ることもありません。

十分な預貯金があり、配偶者にも安定した収入があり、住宅ローンもなく、子どもの教育費や生活費の見通しが立っている家庭であれば、民間の生命保険に大きく頼らない選択もあります。

遺族年金があります。住宅ローンを組んでいる人であれば、団体信用生命保険によってローン残高がなくなる場合もあります。年齢別の死亡率を見れば、30代から50代で亡くなる確率は、高齢期ほど高くありません。

その意味では、「生命保険はいらない」という意見にも、合理的な部分があります。

ただ、相談現場で見てきた家計は、死亡率だけでは説明できません。

問題は、亡くなる確率が高いか低いかだけではありません。もし亡くなったとき、遺された家族の生活が続くかどうかです。

住宅ローンはなくなるかもしれない。けれど、食費、光熱費、通信費、教育費、車の維持費、固定資産税、家の修繕費は残ります。配偶者が働くとしても、すぐに十分な収入を得られるとは限りません。

この記事では、生命保険の加入を勧めるつもりはありません。

「生命保険はいらない」という考え方を否定するつもりもありません。

公的データと実際の相談事例をもとに、死亡率ではなく、遺された家族の生活を守れるかどうかという視点で、生命保険が必要かを考えます。特に50代から60代前半の方、名古屋圏でリアル面談を想定して家計を見直したい方に向けて、実務で使っている考え方を整理します。

「生命保険は要らない」という意見は間違いなのか

生命保険不要論でよく挙げられるのは、次のような理由です。

  • 死亡率は高くない
  • 遺族年金がある
  • 住宅ローンは団体信用生命保険でなくなる
  • 子どもが独立すれば大きな保障はいらない
  • 保険料を払うより、貯蓄や投資に回した方がよい
  • 独身や夫婦のみなら、死亡保障は少なくてよい

どれも、完全な間違いではありません。

むしろ、必要のない死亡保険に入り続けることは、家計にとって負担です。若い頃に加入した大きな定期保険を、子どもが独立した後もそのまま持ち続けている。住宅ローンがなくなったのに、以前と同じ死亡保障を続けている。こうしたケースでは、見直しが必要です。

また、独身の方や、夫婦それぞれに十分な資産と収入がある方にまで、大きな生命保険を勧める必要はありません。

生命保険は、亡くなった本人のための商品ではありません。遺された家族の生活を支えるための仕組みです。

だから、守るべき家族や家計上の不足がなければ、生命保険はいらないという判断も成り立ちます。

問題は、「死亡率が低いからいらない」と短く結論づけてしまうことです。

死亡率が低いことと、万一のときに家族が困らないことは、同じではありません。

30代から50代の死亡率は高くない。それでも判断は別です

生命保険を考えるとき、まず死亡率を見ることは大切です。

厚生労働省の令和7(2025)年簡易生命表では、各年齢の人が1年以内に死亡する確率が示されています。30代から50代の死亡率を見ると、高齢期に比べれば確かに低い数字です。

年齢 男性の死亡率 女性の死亡率 10万人あたりの死亡数の目安
30歳 0.051% 0.028% 男性51人、女性28人
40歳 0.095% 0.055% 男性95人、女性55人
50歳 0.234% 0.134% 男性234人、女性134人
55歳 0.379% 0.204% 男性379人、女性204人

ただ、10万人あたりの数字だけでは、自分ごととしてイメージしにくいかもしれません。

そこで、少し見方を変えてみます。小学校6年生の同級生が100人いたとして、その100人が年齢を重ねる中で、各年齢までに何人亡くなっているかという累計のイメージです。

小6の同級生100人で見る年齢別の累計死亡者数グラフ
12歳時点の同級生100人を、男性50人・女性50人と仮定した概算です。単年の死亡率ではなく、各年齢までの累計死亡者数として見ると、死亡率の低さと家計リスクを分けて考えやすくなります。

この表だけを見ると、「やはり生命保険はいらない」と感じる人もいると思います。

30歳男性の1年以内の死亡率は0.051%。40歳男性でも0.095%。50歳男性で0.234%。数字だけを見れば、確率は高くありません。

しかし、生命保険の必要性は、死亡率だけでは決まりません。

死亡率は「起こる確率」です。

必要保障額は「起きたときに、家族がどれだけ困るか」です。

ここを混同すると、判断を誤ります。

たとえば、同じ50歳男性でも、子どもが独立し、夫婦ともに収入があり、住宅ローンがない家庭なら、大きな死亡保障は必要ないかもしれません。

一方で、50歳でも末子がまだ小学生、住宅ローンが残っている、配偶者がパート収入中心、貯蓄が少ないという家庭なら、死亡率が低いからといって備えを軽く見ることはできません。

生命保険は、平均の死亡率に入るかどうかを当てるものではありません。

万一その側に入ったとき、家族の生活が崩れないようにするためのものです。

遺族年金と団体信用生命保険でどこまで守れるか

生命保険を考える前に、公的制度と住宅ローンの保障を確認します。

まず遺族年金です。

遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。亡くなった方の年金加入状況、保険料納付状況、遺族の年齢、子どもの有無などによって、受け取れる年金は変わります。

子のある配偶者や子は、要件を満たせば遺族基礎年金を受け取れる場合があります。会社員や公務員など厚生年金に加入していた方が亡くなった場合は、要件を満たせば遺族厚生年金の対象になることもあります。

これは非常に大切な制度です。

ただし、遺族年金だけで、今までと同じ生活費、教育費、住宅維持費、老後資金まで完全にまかなえるとは限りません。

次に団体信用生命保険です。

住宅ローンを組むとき、多くの方は団体信用生命保険に加入します。加入者が亡くなった場合、所定の条件を満たせば、残りの住宅ローンが弁済されます。

住宅ローンがなくなることは、遺された家族にとって非常に大きな支えです。

ただし、団体信用生命保険で消えるのは、原則として住宅ローンです。

生活費は消えません。

固定資産税も、火災保険も、修繕費も、車の買い替えも、教育費も残ります。

名古屋圏で相談を受けていると、車が生活必需品になっている家庭も少なくありません。住宅ローンがなくなっても、車の維持費、子どもの送迎、通勤費、親の介護に関わる移動費は残ります。

公的制度と団体信用生命保険は、まず正しく評価するべきです。

そのうえで、そこから漏れる生活費をどうするかを見ます。

制度・保障 支えるもの 別に考えたいもの
遺族基礎年金 子のある配偶者や子の生活を支える公的年金 子どもの年齢、受給要件、家計の不足額
遺族厚生年金 厚生年金加入者などの遺族を支える年金 亡くなった方の加入状況、遺族の年齢、受給額
団体信用生命保険 住宅ローン残高の弁済 生活費、教育費、固定資産税、修繕費、老後資金
民間の生命保険 公的制度や団信で足りない部分を補う 必要以上に入りすぎないこと、定期的な見直し

生命保険を考える順番は、民間保険が先ではありません。

遺族年金はいくら見込めるか。団体信用生命保険で住宅ローンはどうなるか。預貯金はいくらあるか。配偶者の収入はどう変わるか。

その後に、足りない部分を生命保険で補うかどうかを考えます。

実際の相談で見た2つのケース

ここからは、実際の相談や給付対応で見てきた事例をもとに紹介します。

個人が特定されないよう、年齢、家族構成、時期、金額の一部は調整し、趣旨が変わらない範囲で再構成しています。

収入保障保険を65歳までにしていたことで、生活が守られたケース

あるご家庭では、ご主人が現役中に亡くなりました。

加入していたのは、収入保障保険です。亡くなったときに、毎月一定額を受け取れるタイプの死亡保険でした。保障期間は65歳まで。

この契約をした当時、子どもはまだ小さく、教育費もこれからという時期でした。必要保障額を考えるときには、子どもが独立するまでを一つの目安にしながらも、配偶者の老後手前までの生活費も含めて検討しました。

実際に亡くなった時点では、子どもはすでに独立に近い年齢でした。

もし保障期間を子どもの独立時期だけに合わせて短くしていたら、受け取れる保険金はかなり少なくなっていたと思います。

しかし、65歳までの収入保障保険にしていたため、結果として約2,500万円を受け取ることができました。

このお金で悲しみが消えるわけではありません。

ただ、生活は守られました。

住宅ローンや遺族年金だけでは埋めきれない部分を、毎月の生活費として補うことができました。急いで家を売る必要もなく、配偶者が無理に働き方を変える必要もありませんでした。

このケースで感じたのは、死亡保障は「亡くなる確率」に合わせるものではないということです。

亡くなった後、家族がどれだけの期間、どれだけの生活費を必要とするか。

そこに合わせて考えるものです。

専業主婦だから葬儀代だけでよい、と考えていたケース

もう一つ、強く印象に残っているケースがあります。

専業主婦の方について、「収入がないから大きな死亡保障はいらない。葬儀代くらいでよい」と考え、死亡保障は300万円程度にしていたご家庭です。

たしかに、専業主婦に給与収入はありません。

そのため、生命保険の必要保障額を考えるときに、主たる収入者より保障額を小さくすることは自然です。

ただ、その方が亡くなったとき、子どもはまだ小さく、家計と生活の負担は想像以上に重くなりました。

家事、育児、学校や保育園の対応、食事、洗濯、掃除、子どもの体調不良時の対応。これまで家庭の中で担っていた役割が、一気に残された家族へ移りました。

外部サービスを使う。

働き方を変える。

親族に頼る。

子どもの生活リズムを整える。

どれも、お金と時間がかかります。

300万円は決して小さな金額ではありません。葬儀費用や当面の支出には役立ちます。

しかし、子どもが小さい家庭で、残された親が仕事と育児を一人で抱える状況では、生活を立て直すための資金としては十分とは言えませんでした。

このケースで後悔が残ったのは、「専業主婦だから葬儀代だけでよい」と単純に考えてしまったことです。

収入があるかどうかだけでなく、その人が家庭の中で担っている役割を金額に置き換えて考える必要がありました。

生命保険は、収入だけを補うものではありません。

生活を回すために必要な時間や役割を、お金で一部補うためのものでもあります。

必要保障額は「去年いくら貯金できたか」から逆算する

生命保険の必要保障額というと、細かな計算式を思い浮かべる人が多いかもしれません。

遺族年金、生活費、教育費、住宅費、老後資金、預貯金、退職金、配偶者の収入。

もちろん、本格的に設計するなら、それらを一つずつ確認します。

ただ、相談現場では、もっと現実に近い入り口があります。

それが、

去年いくら貯金できたか。

ここから逆算する方法です。

なぜなら、去年の貯金額には、その家庭の生活の現実が表れているからです。

年収が高くても、ほとんど貯金できていない家庭があります。反対に、年収がそれほど高くなくても、堅実に貯金できている家庭もあります。

「毎月いくら使っていますか」と聞かれて、すぐ答えられる人は多くありません。

けれど、「去年、最終的にいくら増えましたか」は、通帳や家計アプリ、証券口座の残高を見れば確認できます。

確認する順番 見るもの 考え方
1 去年の手取り収入 家計に実際に入ってきたお金を見る
2 去年増えた貯金額 生活後に残ったお金を確認する
3 実際の年間生活費 手取り収入から貯金額を引いて把握する
4 万一後の収入 遺族年金、配偶者の収入、家賃収入などを見る
5 不足額 生活費から万一後の収入を引く
6 不足が続く年数 末子独立、配偶者の年金開始、退職時期などで区切る

たとえば、去年の手取り収入が700万円、貯金できた金額が100万円なら、その家庭はおおよそ年600万円で生活していたことになります。

もし主たる収入者が亡くなった後、遺族年金や配偶者の収入などで年350万円を見込めるなら、年間の不足は250万円です。

その不足が10年続くなら、単純計算で2,500万円。

ここから、すぐ使える預貯金、死亡退職金、すでに準備済みの教育資金などを差し引いて、生命保険で補う金額を考えます。

もちろん、これは簡易的な考え方です。

教育費のピーク、住宅修繕費、車の買い替え、親の介護、配偶者の働き方、税金や社会保険料の変化まで見れば、必要保障額は変わります。

それでも、まず「去年いくら貯金できたか」から見ると、机上の理想ではなく、実際の生活に近い数字から考えられます。

必要保障額は細かく合わせすぎない

生命保険の設計で、もう一つ大切にしていることがあります。

必要保障額を、細かく合わせすぎないことです。

もちろん、過大な保険は避けるべきです。必要以上の死亡保障を持てば、保険料が家計を圧迫します。

ただ、必要保障額を1万円単位、10万円単位でぴったり合わせようとしすぎるのも、現実的ではありません。

家計は変わります。

物価も変わります。

教育費も、医療費も、住宅修繕費も、今の想定どおりに進むとは限りません。

特に50代から60代前半では、子どもの進学、親の介護、自分たちの退職、住宅修繕、車の買い替えが重なりやすくなります。

さらに、インフレも考えなければなりません。

今日の1,000万円と、10年後の1,000万円の実質的な価値が同じとは限りません。

だから、生命保険の必要保障額は、細かく削りすぎるより、少し余裕を持たせる方が現実的です。

「余裕を持たせる」といっても、むやみに大きくするという意味ではありません。

遺族年金、団体信用生命保険、預貯金、退職金、配偶者の収入を確認したうえで、足りない部分に少し幅を持たせるということです。

生命保険は、正確な答えを当てる数学ではありません。

遺された家族が、慌てずに次の生活を選べる時間を確保するための仕組みです。

50代から60代前半で確認したいこと

50代から60代前半の生命保険見直しは、若い頃の見直しとは少し違います。

子どもが独立していれば、大きな死亡保障を減らせることがあります。

住宅ローンが終わっていれば、必要保障額も下がります。

一方で、配偶者の老後生活、親の介護、自分たちの医療費、住宅修繕費、相続の準備が見えてくる時期でもあります。

生命保険をすべて解約してよいかどうかは、死亡保障だけでは判断できません。

  • 配偶者は一人になった後、年金だけで生活できるか
  • 住宅ローンや借入は残っているか
  • 子どもに経済的な支援が必要な期間は残っているか
  • すぐ使える預貯金はいくらあるか
  • 相続時に現金が必要になる可能性はあるか
  • 葬儀費用や死後整理費用を誰が負担するか
  • 保険料を払い続けることで、老後資金を圧迫していないか

名古屋で面談していると、50代以降の相談では「保険を増やしたい」よりも、「このまま続けてよいのか」「解約してよいのか」「残すならどれか」という相談が多くなります。

ここで必要なのは、商品比較ではありません。

家計全体を見て、残す保障と減らす保障を分けることです。

よくある質問

生命保険はいらないと言われますが、本当ですか

人によります。十分な預貯金があり、遺族年金や団体信用生命保険、配偶者の収入で生活を維持できるなら、大きな死亡保障はいらない場合があります。ただし、死亡率だけで判断するのではなく、遺された家族の生活費や教育費、住宅維持費を確認する必要があります。

団体信用生命保険があれば、生命保険は不要ですか

団体信用生命保険で住宅ローンがなくなる場合は、大きな支えになります。ただし、生活費、教育費、固定資産税、火災保険、住宅修繕費などは残ります。団信で消えるものと、残る支出を分けて考えてください。

専業主婦に生命保険は必要ですか

収入がないから不要、と単純には言えません。家事、育児、介護、生活管理など、家庭の中で担っている役割があります。小さな子どもがいる家庭では、外部サービスや働き方の変更にお金がかかることもあります。葬儀代だけで足りるかを確認してください。

必要保障額はいくらにすればよいですか

まず、去年いくら貯金できたかを確認します。手取り収入から貯金額を引くと、実際の年間生活費が見えてきます。そこから遺族年金、配偶者の収入、預貯金、団信で消える住宅ローンを考慮し、不足額と不足が続く年数を見ます。細かく合わせすぎず、インフレも考えて少し余裕を持たせるのが現実的です。

まとめ

生命保険は、必要か不要かを死亡率だけで決めるものではありません。

30代から50代の死亡率は、高齢期に比べれば高くありません。

それでも、万一のときに遺された家族の生活が続くかどうかは、別の問題です。

遺族年金があります。

団体信用生命保険で住宅ローンがなくなることもあります。

預貯金で備えられる家庭もあります。

そのうえで、生活費、教育費、住宅維持費、配偶者の老後資金まで見て、不足する部分があるなら、生命保険はその不足を補う手段になります。

必要保障額は、細かい計算だけで決めるものではありません。

去年いくら貯金できたか。

今の生活はいくらで成り立っているか。

遺族年金や配偶者の収入で、どこまで生活が続くか。

そこから考える方が、実際の家計に近い判断になります。

保険に入ることが正解ではありません。

入らないことが正解でもありません。

大切なのは、

遺された家族の生活が本当に続けられるか。

この一点です。

そして、その判断を一緒に考えるのが、専門家の役割だと思っています。

私は保険を増やすことを勧めたいわけではありません。公的制度、預貯金、住宅ローン、教育費、老後資金まで含めて、何を自己資金で備え、何を保険で備えるのかを整理する。そのための判断材料を、これからも届けていきたいと思います。

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この記事を書いた人・編集監修

Hajime Maeda。AFP。保険、資産形成、退職金、老後資金、相続、教育費など、家計全体に関する相談業務に20年以上従事。制度や商品の一般論だけで結論を出すのではなく、相談者の家計、働き方、家族構成を踏まえ、判断に必要な情報を整理することを重視している。

出典・参考

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