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退職金は、長く働いてきた方にとって大きな安心材料です。一方で、受け取った直後は銀行、証券会社、保険会社などからさまざまな提案を受けやすく、「早く決めた方がいいのでは」と感じてしまう方も少なくありません。
ただ、退職金は一度に大きなお金が動くからこそ、最初に見るべき順番があります。商品を選ぶ前に、税金、生活費、年金、使う時期、保険の役割を確認する。この順番を外すと、後から「必要なお金まで動かしてしまった」と感じることがあります。
この記事では、退職金を受け取る前後に確認したい5つの項目を整理します。制度に関する部分は記事末尾の出典に基づき、出典が確認できない断定は避けています。
退職金で最初に確認したいのは、額面ではなく手取り額です。国税庁は、退職金について「退職所得控除」や分離課税などにより税負担が軽くなるよう配慮されていると説明しています。ただし、退職所得控除額は勤続年数によって変わり、退職金の受け取り方や勤務形態によって扱いが変わる場合があります。
退職金を受け取った後に「思ったより税金が少なかった」「逆に思ったより残らなかった」と感じるのは、額面だけで判断していることが多いです。まずは勤務先から受け取る退職所得の源泉徴収票、退職所得の受給に関する申告書の提出状況、住民税を含めた控除後の金額を確認します。
この段階で投資商品や保険商品を決める必要はありません。手取り額が確定していないうちに資金配分を決めると、生活資金まで運用に回してしまうことがあります。
退職金は、ひとつの大きな資金として見えるため、まとめて運用するか、まとめて預金するかという二択で考えがちです。しかし実務上は、時期で分ける方が判断しやすくなります。
まず、1年以内に使う予定のあるお金を分けます。税金、社会保険料、住宅ローンの繰上返済を検討する場合の資金、車の買い替え、家の修繕、親の介護、自分たちの医療費などです。次に、数年以内に使う可能性があるお金を分けます。最後に、10年以上使わない可能性が高い資金が残るかを見ます。
投資やNISAを考えるのは、この最後の部分です。生活資金と投資資金が混ざったままだと、相場が下がったときに本来使う予定だったお金まで不安定になります。
退職金の使い道は、年金と切り離して考えられません。日本年金機構によると、老齢年金は66歳以後75歳までの間で繰下げ受給を選べる場合があり、繰下げによる増額率は1か月あたり0.7%です。75歳まで繰り下げた場合の増額率は最大84%とされています。
ただし、増額率だけで「繰下げた方が得」と決めるのは危険です。繰下げるまでの生活費を何でまかなうのか、配偶者の年金はいつから受け取るのか、健康状態や働く予定はどうかによって、退職金の役割は変わります。
確認したいのは、毎月の生活費から年金収入を差し引いた不足額です。不足額が小さい家庭では、退職金を大きく運用しなくてもよい場合があります。反対に、年金開始までの空白期間が長い家庭では、退職金を「増やすお金」より先に「つなぐお金」として設計する必要があります。
金融庁によると、2024年からのNISAは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円、併用で年間360万円まで利用でき、非課税保有限度額は総枠1,800万円です。この制度は長期の資産形成に使いやすくなっています。
ただし、退職金を受け取った方がNISA枠を急いで埋める必要があるとは限りません。NISAは利益が出た場合に非課税メリットがありますが、元本保証ではありません。数年以内に生活費として使う予定があるお金をNISAに入れると、必要な時期に値下がりしている可能性もあります。
退職金でNISAを使うなら、先に「いつまで使わないお金か」を決めることです。制度のメリットよりも、家計の時間軸を優先してください。
退職前後は保険を見直すタイミングでもあります。子どもが独立している、住宅ローンが減っている、貯蓄が増えている場合、死亡保障の必要額は若い頃と変わっている可能性があります。一方で、医療保障や介護への備えは、公的制度と自己負担の範囲を確認したうえで判断する必要があります。
厚生労働省は、高額療養費制度について、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度と説明しています。つまり、医療費のすべてを民間保険だけで備える必要はありません。ただし、差額ベッド代、先進医療、通院時の交通費、収入減など、公的制度でカバーされにくい支出もあります。
退職金が入ったから保険をすべて解約する、あるいは不安だから新しく入る、という判断はどちらも急ぎすぎです。保険は「何のリスクを、いくらまで、何年間カバーするのか」で見直します。
退職金を受け取った後に大切なのは、良い商品を探すことだけではありません。税引後の手取りを確認し、使う時期で資金を分け、年金と生活費の不足額を見て、NISAや保険の役割を決めることです。
退職金は、老後の不安を一気に解決してくれる魔法のお金ではありません。しかし、順番を間違えずに整理すれば、これからの暮らしを支える大切な土台になります。
退職金を受け取る前に全体像を整理したい方へ
この記事を書いた人
Hajime Maeda(AFP、実務経験20年)。退職金、年金、老後資金をまとめて考える個別相談を行っています。
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