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60代のNISA、退職金で始める前に注意したいこと

2026.05.14

退職金を受け取ったあと、「NISAを使った方がいいですか」と相談されることがあります。2024年からNISA制度が拡充され、非課税で運用できる枠が大きくなったため、退職金の置き場所として関心を持つのは自然なことです。

ただし、60代のNISAは、30代や40代の積立投資とは考え方が異なります。使える枠が大きいことと、自分の退職金を入れてよいかは別問題です。老後資金は、増やすお金である前に、生活を支えるお金でもあります。

この記事では、60代が退職金でNISAを始める前に確認したい点を整理します。制度説明は金融庁などの出典に基づき、確かな情報だけを使います。

1|新NISAの制度は大きいが、枠を埋める必要はない

金融庁によると、2024年からのNISAは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円、両方を併用すると年間360万円まで投資できます。非課税保有限度額は総枠1,800万円です。

この数字を見ると、「退職金の一部を早く入れた方がいい」と感じるかもしれません。しかし、NISAは税金を軽くする制度であって、損をしない制度ではありません。投資した商品が値下がりすれば、NISA口座でも評価額は下がります。

60代で大切なのは、枠を埋めることではなく、使う予定のない資金をどれだけ確保できるかです。制度の上限額から考えるのではなく、家計の余力から考えます。

2|退職金を一括投資する前に、生活費の置き場所を決める

退職金でNISAを使う場合、最初に分けたいのは生活費です。年金開始までの生活費、住民税や社会保険料、住宅修繕、車の買い替え、医療や介護への備えなど、数年以内に使う可能性があるお金は、投資とは分けて管理します。

NISA口座で投資信託や株式を保有していると、必要な時期に売却することはできます。しかし、売却したい時期に相場が下がっている可能性はあります。だからこそ、数年以内に使うお金は、価格変動のある資産に入れすぎないことが重要です。

退職金は一括で入ってくるため、気持ちも大きくなりがちです。しかし、老後のお金は「すぐ使う」「数年以内に使う」「当面使わない」に分けるだけで、NISAに回せる金額が見えやすくなります。

3|60代のNISAは「取り崩し」までセットで考える

若い世代のNISAは、長く積み立てて資産形成する目的が中心です。一方、60代のNISAでは、いつか取り崩すことを前提に考える必要があります。運用を始める時点で、出口を決めておくことが大切です。

たとえば、年金で生活費がほぼ足りている家庭なら、NISA資産は将来の医療・介護・相続対策の余力として持てるかもしれません。反対に、毎月の不足額を退職金から補う家庭では、NISA資産を定期的に取り崩す可能性があります。

同じNISAでも、目的が違えば選ぶ商品や金額は変わります。目的を決めずに「人気の商品だから」「ランキングで上位だから」という理由で選ぶと、値下がりした時に続ける理由がなくなってしまいます。

4|成長投資枠の商品は、内容と費用を確認する

金融庁の説明では、成長投資枠では上場株式や投資信託等が対象になります。ただし、整理・監理銘柄や信託期間20年未満の投資信託、毎月分配型の投資信託など、対象から除外されるものもあります。

成長投資枠は自由度が高い一方で、商品選びの責任も大きくなります。投資信託であれば、投資対象、信託報酬、為替リスク、分配方針を確認します。株式であれば、値動きの大きさや個別企業に集中するリスクを理解する必要があります。

退職金を使う場合、「よくわからないけれど非課税だから」という理由で商品を選ばないことです。非課税であることはメリットですが、商品そのもののリスクを消すものではありません。

5|夫婦で使うお金なら、片方だけで決めない

退職金は受け取った本人の資産ですが、老後資金として使う場合は夫婦の生活に関わります。どちらか一方が運用に前向きでも、もう一方が大きな値動きに不安を感じるなら、その不安も設計に入れるべきです。

60代以降の資産運用では、理論上の期待リターンだけでなく、下落時に夫婦で耐えられるかが重要です。運用額を抑える、積立で時間を分ける、預金と投資を分けるなど、安心して続けられる形を選ぶ方が、結果的に長く運用しやすくなります。

NISAは便利な制度ですが、家族の納得がないまま始めると、相場が下がった時に不安が大きくなります。制度より先に、夫婦の考え方をそろえておきましょう。

まとめ|60代のNISAは「制度」ではなく「家計」から始める

60代でNISAを使うこと自体は、選択肢として十分に考えられます。ただし、退職金は生活を支える資金でもあるため、若い世代と同じ感覚で枠を埋める必要はありません。

最初に確認するのは、NISAの上限額ではなく、生活費、年金、取り崩し予定、夫婦のリスク許容度です。そのうえで、当面使わないお金があるなら、NISAを活用する意味が出てきます。

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この記事を書いた人

Hajime Maeda(AFP、実務経験20年)。NISA、退職金、老後資金をまとめて考える個別相談を行っています。

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