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定年後も住宅ローンが残ると、「退職金で一気に返したほうが安心ではないか」と考えたくなります。借金がなくなる安心感は大きいですし、毎月の返済が消えれば家計も軽く見えます。
ただし、退職金で住宅ローンを完済する判断は、金利だけでは決められません。完済後に手元資金が薄くなり、税金、健康保険料、医療費、家の修繕費、車の買い替えに耐えられなくなる家庭もあります。大切なのは、住宅ローンを消すことではなく、退職後の生活が詰まらない形にすることです。
この記事では、定年後も住宅ローンが残る人が、退職金で完済する前に確認したい数字を整理します。
この記事の要点
退職金で住宅ローンを完済するかどうかは、金利だけで決めない方が安全です。住宅ローン控除、手元資金、退職後の収入、老後生活費を確認してから判断する必要があります。
住宅ローン残高が1,000万円あるから危険、300万円だから安全、という単純な話ではありません。退職金、年金、生活費、配偶者の収入、保険、今後の修繕費によって判断は変わります。
例えば、住宅ローン残高が800万円でも、退職金が1,000万円で他の貯蓄が少ないなら、全額返済後の手元資金はかなり不安です。一方、残高が1,500万円でも、退職金と預貯金が十分あり、年金収入で日常生活が回るなら、部分返済や完済を検討しやすくなります。
つまり、見るべきなのは住宅ローン残高そのものではありません。退職金で返した後に、何年分の生活費が残るかです。
最初に見る数字は、完済後の手元資金です。ここでいう手元資金は、旅行や趣味に使うお金ではなく、生活を守るためのお金です。
退職金で完済した後、これらに使えるお金が数百万円しか残らない場合は、安心のための完済が、別の不安を作ることがあります。特に戸建ての場合、60代以降に修繕費がまとまって出ることがあります。住宅ローンを消しても、家を維持するお金は残ります。
退職した直後は、収入が下がっても支出がすぐには下がりません。住民税は前年の所得をもとにかかります。健康保険も、任意継続や国民健康保険を選ぶと、在職中より負担が大きく感じられることがあります。
この時期に退職金で住宅ローンを大きく返すと、「ローンは減ったが、現金も減った」という状態になります。退職後1年目に必要な現金を別に残しておかないと、完済後に普通預金が心細くなり、結局ほかの資産を崩すことになります。
退職金で返済する前に、少なくとも退職後1年分の生活費と税金・社会保険料は別枠で確保してください。
実務では、全額返すか返さないかの二択で考えないほうが判断しやすくなります。次の3案を並べます。
全額完済は、毎月返済がなくなる安心感があります。部分返済は、返済負担を軽くしながら現金も残せます。返済継続は、金利負担は残りますが、手元資金を守れます。
どれが正解かは家庭ごとに違います。特に変動金利の場合、将来の返済額上昇も考えます。一方、低金利で返済負担が軽いなら、退職金を急いで使わず、現金を残す価値が高い場合もあります。
住宅ローン控除が残っている場合、繰上返済によって控除額が変わることがあります。また、団体信用生命保険がついている住宅ローンでは、万一のときにローンがなくなる仕組みがあります。
もちろん、団信があるから返済しなくてよいという話ではありません。ただ、住宅ローンには単なる借金以上の性質があるため、返済前に条件を確認する価値があります。金利、控除、団信、残期間、返済額を一緒に見てください。
退職金と住宅ローンの相談では、次の資料があると判断がかなり早くなります。
資料がすべてそろっていなくても、残高と毎月返済額、退職金の概算、生活費が分かれば大まかな方向性は見えます。
定年後も住宅ローンが残る場合、退職金で完済するかどうかは、住宅ローン残高だけで決めないでください。完済後の手元資金、退職後1年目の支出、年金開始後の生活費、団信や住宅ローン控除まで見て判断する必要があります。
借金を消すことは安心につながります。しかし、現金を失いすぎる完済は、老後の別の不安を作ります。全額返済、部分返済、返済継続を並べて、家計全体で確認することが大切です。
退職金と住宅ローンを一緒に整理したい方へ
この記事を書いた人・編集監修
Hajime Maeda。AFP、実務経験20年。退職金、老後資金、保険、住宅ローン、相続など、家計全体を整理する相談業務を行っています。記事では制度の一般論だけでなく、退職前後の実際の資金繰りで確認すべき順番を重視しています。
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