ブログ
BLOG
「うちは財産なんて大したことはないから大丈夫」
相続のご相談を受けていると、こうした言葉を耳にすることがあります。
しかし実際には、財産の多い少ないよりも、「何も準備がされていなかったこと」が、ご家族に大きな負担を与えるケースがあります。
特に親世代は、
というお気持ちから、生前の準備が後回しになってしまうことも少なくありません。
ところが、相続はいつ起こるか分かりません。今回は、80代のお父様が突然お亡くなりになり、その後ご相談いただいた実際の事例をもとに、相続で最初に整理したことを紹介します。
なお、守秘義務のため、個人が特定されないよう一部内容を変更しています。税務・登記などの個別判断は、税理士・司法書士などの専門家へ確認することが前提です。
この記事の要点
今回ご相談いただいた方とは、それまで面識はありませんでした。
きっかけは、以前相続のお手伝いをさせていただいたお客様からの一本の電話でした。
「友人のお父さんが突然亡くなって、自宅の相続登記をしたいそうです。どう進めればよいでしょうか」
という内容です。
登記であれば、私が直接手続きを行う分野ではありません。また、ご自宅の名義変更だけであれば、まずはご自宅近くの司法書士に相談された方が動きやすい場合もあります。
そこで最初は、「まずはご自宅の近くの司法書士さんに相談されてみてはどうでしょうか」とお伝えしました。
その時点では、私が専門家チームを組んで関わるというより、「登記の相談先を確認して終わり」だと思っていました。
ところがしばらくして、そのご家族から再びご連絡をいただきます。
「どうも相続財産の規模がかなり大きいようなんです」
詳しくお話を伺うと、預貯金や株式などを含めた相続財産は、相続税の申告が必要になる可能性が高い規模でした。
登記だけで済む話であれば、司法書士への相談が中心になります。しかし、財産規模が大きくなると、相続税や財産調査、遺産分割の進め方など、司法書士だけでは完結しない問題が出てきます。
さらに、ご相談者のお二人は現役世代で、お仕事も忙しく、平日に何度も事務所へ出向くことが難しい状況でした。
そこで、必要に応じて税理士、司法書士、行政書士と連携しながら、全体の流れを整理して進める方法があることをご説明しました。
ご家族からは、
「紹介だけではなく、全体を見ながらサポートしてほしい」
というご要望をいただきました。
そこで、ご相談者であるご兄弟と、改めて詳しくお話を伺うことになりました。
初めてお会いする相続相談では、いきなり財産の話から入ることはありません。
まず確認したのは、
という、ご家族の状況です。
今回のお父様は80代で突然お亡くなりになり、ご家族もまだ心の整理が十分につかない状況でした。
その上で、なぜ改めて私に相談したいと思われたのかを確認しました。
理由は二つありました。
一つは、平日に何度も事務所へ出向くことが難しかったことです。ご相談者のお二人は現役世代で、お仕事も忙しく、相続手続きのために何度も平日の時間を作ることが簡単ではありませんでした。
私は普段から、土日や夜間の面談も含め、お客様の事情に合わせて対応できる専門家と連携しています。そのことをご説明したところ、ご安心いただけたようでした。
もう一つは、相続財産の規模です。
概算でも相続税が発生する可能性が高く、司法書士だけでは対応できない内容になっていました。そこで、不動産の状況や財産の概要を確認し、
「この規模になると、司法書士だけではなく、税理士や行政書士との連携も必要になります」
とご説明しました。
後日、ご家族のご自宅で改めて面談を行いました。
私に加え、相続を専門とする税理士法人の担当税理士と行政書士にも同席してもらいました。
まずは税理士から相続税申告の流れや費用について説明し、行政書士からは今後必要となる手続きについてご説明しました。
私はご家族に、
「内容や費用に納得いただければ進めましょう。もし納得できなければ、無理に依頼していただく必要はありません」
とお伝えしました。
その結果、ご家族からは「ぜひお願いしたい」というお返事をいただき、専門家チームとして相続手続きを進めることになりました。
今回の相続は、私が経験してきた中でも比較的進めやすいケースでした。
理由は二つあります。
一つ目は、相続財産の多くが預貯金や有価証券など、換金しやすい資産だったことです。
相続税は、原則としてお亡くなりになったことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する必要があります。
実際の現場では、
「相続税は発生するけれど、納税するための現金がない」
というケースが少なくありません。
例えば、
こうした財産は評価額が高くても、すぐに現金化できるとは限りません。土地を売るにも時間がかかりますし、自社株も自由に売却できるものではありません。
今回は換金性の高い資産が中心だったため、その点では比較的進めやすいケースだったと思います。
もう一つは、ご家族の関係です。
相続人はお母様とご兄弟お二人でした。ご兄弟お二人とも、冷静に話し合いができる方でした。
相続では、誰かが強く主張すると、別の誰かが我慢してしまうことがあります。表面上はまとまっても、本当は納得していないというケースもあります。
今回は、お互いが感情的になることなく、「家族にとって何が一番良いのか」という視点で話し合いができていました。
遺言書はありませんでしたが、遺産分割協議も比較的スムーズに進むのではないかと感じました。
ただし、私が気になったのは今回の相続だけではありませんでした。
お母様も高齢で、ご自身の資産をお持ちでした。つまり、今回の相続だけではなく、その先にある「二次相続」まで考える必要があります。
配偶者には、相続税の負担を軽減する制度があります。この制度を利用すれば、今回の相続税を抑えられる場合があります。
しかし、その結果としてお母様に多くの財産が残れば、将来の二次相続で、さらに大きな相続税が発生する可能性があります。
本来であれば、
「今回の税金だけを安くする」
のではなく、
「二次相続まで含めて、ご家族全体でどのような財産の持ち方が望ましいのか」
そこまで一緒に考えたいところです。
しかし、ご兄弟お二人とも現役で非常にお忙しく、十分な打ち合わせ時間を確保することが難しい状況でした。
そのため、まずは申告期限までに遺産分割協議をまとめ、相続税申告を優先せざるを得ない状況になっています。
これは決して珍しいことではありません。だからこそ、本来は相続が発生してからではなく、元気なうちからご家族で話し合うことが大切なのです。
今回の事例を通じて改めて感じたことがあります。
相続は「誰に相談するか」だけでなく、「最初に誰が全体を見渡してくれるか」が非常に重要だということです。
司法書士には司法書士の役割があります。
税理士には税理士の役割があります。
行政書士には行政書士の役割があります。
それぞれが専門家として非常に重要な存在です。
しかし、相続というのは、一つの専門分野だけで完結するものではありません。
今回も、司法書士による登記、行政書士による財産調査、税理士による相続税申告、それぞれ専門家が役割を果たしています。
一方で私は、その間に立ちながら、
そんなことを常に考えながら面談に同席しています。
税金を計算することも大切です。手続きを進めることも大切です。
しかし、ご家族が安心して相続を終えられるためには、それぞれの専門家を必要なタイミングでつなぎ、全体を見渡しながら進めていく存在も必要ではないかと、今回のご相談を通じて改めて実感しました。
相続で最初に整理したいのは、財産の金額だけではありません。
こうしたことを早めに整理しておくと、手続きを急ぐ場面でも判断しやすくなります。
相続は、税金だけの問題でも、登記だけの問題でもありません。ご家族の生活、気持ち、将来の財産の持ち方まで含めて考える必要があります。
相続で何から始めればよいか分からない方へ
相続税、登記、財産調査、二次相続、残されたご家族の生活費は、別々に考えると判断しにくくなります。必要に応じて税理士・司法書士・行政書士と連携しながら、まず何を整理すべきかを一緒に確認します。
この記事を書いた人・編集監修
Hajime Maeda。AFP、実務経験20年。退職金、老後資金、保険、住宅ローン、相続など、家計全体を整理する相談業務を行っています。記事では制度の一般論だけで結論を急がず、実際の家計やご家族の状況で確認すべき順番を重視しています。
個別相談ご希望の方は
こちらからお問い合わせください。