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【2024年改正】生前贈与110万円の落とし穴|加算期間が7年に延長。相続税対策は根本から見直しを

2025.11.28

【2024年改正】生前贈与110万円の落とし穴|加算期間が7年に延長。相続税対策は根本から見直しを

「毎年110万円までなら非課税だから、コツコツ子どもに贈与しておけば相続税が減らせる」

長年、そう信じて続けてきた方が非常に多いのですが、2024年の税制改正で、この常識は大きく揺らぎました。

結論から言えば、110万円の贈与は“相続開始前7年間”まで相続税に持ち戻される時代に入りました。つまり、「生前贈与で節税したつもりが、実際は節税になっていなかった」というケースが今後増えてくる可能性があります。

1|何がどう変わったのか?——「3年 → 7年」拡大のインパクト

生前贈与加算とは、相続開始前の一定期間内の贈与を「相続財産に戻して計算する」制度です。従来は3年間だけが持ち戻しの対象でした。

しかし、2024年の改正により、次のように変わります。

  • 持ち戻し期間が最大7年間に拡大
  • 相続開始前4〜7年分については100万円の控除が新設

イメージが湧きやすいように、シンプルな例で確認しておきます。

▼例:年110万円の贈与を7年間続けた場合

  • 従来(3年持ち戻し):最後の3年分 110万円 × 3年 = 330万円が相続財産に加算
  • 改正後(7年持ち戻し):原則7年分 110万円 × 7年 = 770万円が対象

実際には後述の「100万円控除」があるため、最終的に持ち戻されるのは最大670万円になりますが、それでも節税効果は以前より小さくなる方向です。

2|いつから影響が出るのか?——2024〜2031年の“段階導入”

今回の7年拡大は、いきなりすべての年に適用されるわけではありません。現実的な配慮として、段階的に導入されます。

▼正式なスケジュールの整理

  • 2024年〜2026年の贈与:生前贈与加算の対象期間は「相続開始前3年」のまま
  • 2027年の贈与:相続開始前4年まで持ち戻し
  • 2028年の贈与:相続開始前5年まで持ち戻し
  • 2029年の贈与:相続開始前6年まで持ち戻し
  • 2030年の贈与:相続開始前7年まで持ち戻し
  • 2031年以降に相続が発生:完全に「7年持ち戻し」が定着

ポイントは、2024年以降の贈与は「相続がいつ発生するか」によって扱いが変わるということです。年ごとの贈与記録をきちんと残しておかないと、後から計算し直すのが非常に大変になります。

3|7年分すべてが戻るわけではない——「4年間で100万円控除」という優遇措置

改正と聞くとどうしても「改悪」という印象になりがちですが、国も配慮ゼロというわけではありません。相続開始前4〜7年の贈与については、一定の優遇措置が用意されています。

▼優遇措置のポイント

  • 相続開始前4〜7年の贈与額の合計から100万円までは持ち戻さない
  • 「4年×100万円」ではなく、「4年分合計から100万円控除」です

▼例:毎年110万円 × 7年間(合計770万円)を贈与した場合

  • 直近3年分:110万円 × 3年 = 330万円 → 全額を相続財産に加算
  • その前4年分:110万円 × 4年 = 440万円 → 合計440万円 − 100万円 = 340万円を加算

結果として、持ち戻されるのは330万円 + 340万円 = 670万円となります。

「7年分すべてがフルに相続財産に戻る」という誤解も少なくありませんが、実際にはこの100万円控除がワンクッションになっています。

4|どれくらい相続税が変わるのか?——数値で見る影響度

「制度の説明は分かったけれど、結局うちの場合はいくら変わるのか」が一番気になるところだと思います。ここではシンプルな前提で比較してみます。

<前提条件>

  • 相続財産:5,000万円
  • 相続人:子ども1人
  • 生前贈与:毎年100万円 × 7年(合計700万円)
  • 基礎控除:3,000万円+600万円×1人 = 3,600万円

改正前(持ち戻し3年)のケース

  • 相続財産:5,000万円
  • 持ち戻し対象:100万円 × 3年 = 300万円
  • 課税対象となる遺産総額:5,000万円+300万円=5,300万円
  • 基礎控除:3,600万円
  • 課税遺産:5,300万円−3,600万円=1,700万円
  • 相続税額:1,700万円×15%−50万円≒約205万円

改正後(持ち戻し7年+100万円控除)のケース

  • 相続財産:5,000万円
  • 持ち戻し対象:100万円 × 7年 = 700万円
  • そのうち相続開始前4〜7年分:100万円 × 4年 = 400万円
  • 4〜7年分に100万円控除適用:400万円−100万円=300万円を加算
  • 直近3年分:100万円 × 3年=300万円 → 全額加算
  • 合計持ち戻し額:300万円+300万円=600万円
  • 課税対象となる遺産総額:5,000万円+600万円=5,600万円
  • 基礎控除:3,600万円
  • 課税遺産:5,600万円−3,600万円=2,000万円
  • 相続税額:2,000万円×20%−200万円=200万円

この単純な前提だけを見ると、むしろ改正後のほうが税額は少なくなっています。これは、税率の境目と控除額の関係によるもので、どのケースでも必ず増税になるわけではありません。

実務では、

  • 相続人の人数(基礎控除額)
  • 配偶者の有無と配偶者控除
  • 不動産の評価額や借入の有無
  • 過去の贈与税額の控除

などにより、結果は大きく変わります。「うちはいくら増える(減る)のか?」は、個別にシミュレーションしてみないと見えてきません。

5|これからの贈与はどう考えるべきか——3つの見直しポイント

(1)相続時精算課税への切り替えを検討する

110万円の暦年贈与は、「とりあえずやっておけば安心」という時代ではなくなりました。今後、大きめの資産移転を検討しているご家庭では、相続時精算課税(2,500万円まで贈与税なし・相続時に精算)への切り替えが候補になります。

相続時精算課税のポイントは次の通りです。

  • 贈与時は2,500万円まで贈与税なし
  • その代わり、相続時にその分をまとめて相続財産に加算(生前贈与加算とは別枠)
  • 原則として一度選択すると暦年課税には戻れない

特に、

  • 値上がりが期待できる資産を早めに移しておきたい
  • 将来の遺産分割を見据えて、今のうちに持分調整をしておきたい
  • 毎年の110万円管理が煩雑で、シンプルにしたい

といったご家庭では、一度検討する価値があります。

(2)孫への贈与を「戦略」として位置づける

生前贈与加算の対象者は「相続人」に限定されています。通常、孫は相続人ではないため、孫への贈与は生前贈与加算の対象外です。

教育資金や結婚・子育て資金の非課税制度と組み合わせることで、

  • 子ども世代への贈与は慎重に
  • 孫世代への教育支援・結婚支援としての贈与は積極的に

というメリハリをつけた資産移転も可能になります。

(3)教育資金・結婚子育て資金の非課税枠を活用する

直系尊属から子・孫への贈与については、次のような非課税制度があります。

  • 教育資金の一括贈与:最大1,500万円まで非課税
  • 結婚・子育て資金の一括贈与:最大1,000万円まで非課税

これらの制度は、生前贈与加算とは別枠で扱われ、一定の要件のもとで大きな金額を非課税で移すことができます。「110万円をコツコツ」よりも、「制度を使って一気に」という選択肢のほうが、結果的に合理的になるケースも少なくありません。

6|110万円贈与は“安心の習慣”ではなく“設計が必要な手段”へ

今回の改正で、110万円の暦年贈与は、

  • 贈与記録の管理が必須
  • 相続発生のタイミングによって効果が変動
  • 家族構成と財産規模で有利・不利が分かれる

という、かなり「設計力」が問われる制度になりました。

同じように毎年贈与をしていても、

  • 相続人が配偶者+子3人なのか、子1人なのか
  • 不動産中心なのか、金融資産中心なのか
  • すでに他の相続対策(保険・信託など)を組んでいるかどうか

といった違いによって、最適な選択肢はまったく変わります。

「とりあえず110万円を贈与しておけば大丈夫」という時代ではなく、家族ごとのシナリオに合わせて生前贈与を設計する時代に変わった、と捉えていただくと良いかと思います。

7|「うちの場合はどうするのが正解?」と思われた方へ

今回の改正は、表面的な情報だけ追いかけていても、なかなか本質が見えづらいテーマです。数字だけではなく、

  • どのタイミングで、誰に、どの資産を渡していくのか
  • 自分たち夫婦の老後資金をどれだけ手元に残すのか
  • 子や孫の世代に、どのように資産と想いをつないでいくのか

といった「お金の設計」と「人生の設計」をセットで考える必要があります。

現在すでに生前贈与を続けている方も、これから始めようとしている方も、今回の改正をきっかけに、

  • 暦年課税を続けるのか
  • 相続時精算課税に切り替えるのか
  • 孫への贈与や教育資金・結婚子育て資金の非課税枠をどう組み合わせるか

一度、冷静に棚卸しをしてみる価値があります。

ご家庭ごとに最適な答えは異なります。相続税・贈与税・老後資金を含めて、トータルでバランスを取りながら、無理のない形で実行できるプランを一緒に考えていきましょう。

※本記事は、2024年時点で公表されている税制等に基づく一般的な情報提供であり、特定の手法や制度の利用を勧誘・推奨するものではありません。実際の相続・贈与の判断にあたっては、最新の法令・通達を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。

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